影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編
びくっと肩を震わせて、彼女は泣きそうになっている。
「・・・学校休んでんだろ、家にいろよ大人しく」
呆れる紫暮だったが、彼女は何か意思を固めたようにくちびるを結んで黙り込んでいる。
「あのね紫暮くん」
「え?」
「昨日の時計男・・・顔が、」
顔、と問い返す。
「すごい・・・悲しそうな泣きそうな顔してたの・・・」
苦しげに足元を見つめながら、彼女は続けた。
「あ、あたし悲鳴上げて逃げちゃったでしょ、それで・・・なんか、すっごく、悪いことしたみたいな気がしちゃって・・・」
「・・・」
「トモダチの怖い話を鵜呑みにしてたけど・・・あの男のひと、泣きそうだった・・・時間くらい、教えてあげてもよかったのかなって・・・」
なんだそれは、と半ば呆れて紫暮はため息をつく。
「ほんとなんだもん!泣きそうで、悲しそうで・・・いたずらしようとか、刺してやろうとか・・・そんな感じじゃなかった!あたしびっくりして・・・あんなふうに逃げようとしたこと、すごく後悔してる・・・」
殆ど叫ぶような調子で、彼女が反論する。今度は紫暮がびくりと肩を震わせた。
「あたし、調べてみようって思ってる。あのひと、すごく困ってる気がするから・・・」
「・・・・・・」
真剣なまなざしに押され、紫暮は黙り込む。調べようとしていたのは紫暮も同じなのだが、彼女は術者ではない。身を守るすべもない。変質者でないとしたら、あれは怪異だ。七星には身を守るすべがない。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白