影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編
「おまえだって思い出してみろ、穂積に恋していたときはどうだった?若さゆえ、突っ走って、迷って間違って、みっともなく戸惑って・・・」
「なっ・・・・・!!」
清香が絶句する気配が伝わる。
「昔の自分って、青くて不完全で恥ずかしかったろ。誰にでもそんな時期があるんだから、紫暮がみっともなくても笑って見守ってやればいいよ」
優しい言葉だった。思ってもみなかった温かさに戸惑う。あんな化け物、と蔑んでいたが、瑞は紫暮の心がどうすれば救われるかを知っているのだ・・・。
(・・・どうしてだろう)
なぜ瑞は、他者の思いがわかるのだろう。
そしてなぜ自分は、この得体の知れない者の言葉に救われているのだろう。
血の通った人間から伝わるのと同じ温かさで、瑞の言葉は静かに紫暮を包んでくれる。
「・・・・・・うち、そないに厳しくあの子に接してるんやろか」
沈んだ清香の声。あの祖母が揺らいでいる。
「愛情もちゃんと感じるよ。おまえだっておばあちゃんをやるのは人生で初めてなんだから、間違えて迷うのが当然だ」
瑞は朗らかに言ったかと思うと、すぐに唸った。
「紫暮、あいつ今におかしな女に走りそうでな・・・俺心配だわー」
続いた瑞の言葉に、いらん心配しやがって、とそれまでのほっこりした気持ちが瞬時に吹き飛ぶ。
「あいつアイドルオタクとかになりそうで心配だわー。ハアハア言いながら盗撮とかに走りそうで怖いわー」
「走るかいドアホゥ」
ガンッ
「イッテェ!俺、穂積にも殴られたことないよ!?なんなの!?げんこつやめてよ!」
「うちのかわいい孫になんちゅうこと言うの。もこみちもびっくりのイケメンやで」
清香の声に、いつもの調子が戻る。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白