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CROSS 第21話 『Lieutenant』

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 片方の敵兵が、本棚の間の通路を歩いてくる。通路を弱々しく照らしている電灯の光が、彼が構えている拳銃に反射している。
 敵兵の右側の本棚の反対側には、佐世保と上社がおり、本棚に両手を置いていた。それから、もう片方の敵兵に見つからないよう、カバーの布を被っている。
 2人は、本棚の空いた隙間から、通路を歩く敵兵の姿を目で追っていた。そして、自分たちの正面近くまで来ると、
{今だ!}
佐世保と上社に勢いよく押された本棚は、敵兵に倒れかかる。
 いかにも古典的な方法だが、本棚を倒して敵兵を倒してしまおうというわけだ。佐世保は正直に言うと、この方法に乗り気ではなかったが、他に良案が思い浮かばなかった。
「おっと!」
倒れてきた本棚を必死に支える敵兵。バラバラとこぼれ落ちた本が、通路に次々に散らばる。広々になった本棚を通し、敵兵と上社の目が合った……。
 やはりこんな古典的な方法では失敗したかと思われたが、対処法は考えてあった。
「ノリが悪いヤツだな」
上社はそう呟くと、すでにホルスターから抜いていた拳銃で、敵兵の額を撃ち抜いた。最新式のサプレッサーのおかげで、銃声は小さく抑えられ、本棚から本が落ちる物音にうまくまぎれこんだ。棚はそのまま倒れ、敵兵の死体を押し潰す。
「おい大丈夫か?」
もう片方の敵兵が駆けつけてくる。佐世保と上社は二手に分かれる。やってきた敵兵は、倒れた棚のそばにしゃがみこみ、下敷きになっている敵兵の様子を伺う。
「こ…これはまずいな」
携帯式通信機に手を伸ばす。しかし、それを防ぐために、
「動くな」
上社は声をかけ、目の前に立つ。瞬時に動きを止め、上社を睨む敵兵。
「な…何者だ? 何をしている?」
「質問は1つずつにしろよ」
上社がそうぼやいたとき、敵兵の背後に潜んでいた佐世保が動く。
「もう1人い」
敵兵は佐世保の存在に気づくことはできたが、自分の後頭部をナイフで突き刺される直前であった……。すでにホルスターから拳銃が抜かれていたが、あと一歩のところで間に合わなかった。
 後頭部から鮮血を撒き散らしながら、土下座のような格好になる敵兵。彼は死ぬまでのひとときを、棚を赤く染める作業で過ごしていた……。

「アンタ、危なかったわよ! アタシの助けがなかったら死んでたでしょうね!」
ナイフについた血をふき取りながら、佐世保が言う。
「気づいてたよ。俺が片付けるつもりだった」
「あら、それは失礼」
死体のそばで軽口を叩いていると、部屋の外が騒がしくなってきた。
「バレたのかしら?」
「いや、ここにいることはまだわかっていないだろう。足音があっちこっちに動いている」