連載小説「六連星(むつらぼし)」第51話~55話
連載小説「六連星(むつらぼし)」第53話
「一夜の宿」
「あら、珍しい、お客さんかい。
外から見たら、女の子が見えたので、ひょっとしたら亡くなったはずの
娘さんが、帰って来たのかと、びっくりしちゃった」
ガラリと駅前広場に面したガラス戸が開いて、初老の婦人が現れた。
手にしたお盆には、夕食の支度が見える。
慣れた様子でいつもの奥のテーブルの上へ、元気にお盆を置く。
「旅の途中で、わざわざ、広野まで足を運んでくれたお譲さんだ。
役場が戻ってきたというニュースを聞いて、様子を見に来たくれたそうだ。
最終電車までまだ時間が有るので、お茶をご馳走していたところさ」
「なんだ。そうなのかい。
それにしても背格好といい、歳回りといい、ほんとうに、
あんたの娘さんと、良く似た感じのお嬢さんだね・・・・」
「あのう・・・・その、娘さんと言うのは、もしかしたら」
「この人の一人娘さ。、大学へ通っていた娘さんのことだよ。
あの日。いわきの海岸で津波に襲われた。
だけどね。いくら探しても見つからず、いまだに行方不明のままなんだ。
この人ったら晩婚なうえに、子供が出来るのも遅かったから、
40歳を過ぎてから授かった娘なんだ。
目に入れても痛くないほど、可愛がっていたんだよ。
親の溺愛っていうんだろうね。ああいうのを」
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第51話~55話 作家名:落合順平