連載小説「六連星(むつらぼし)」第51話~55話
「110万キロワット級の原子力発電所、1基が使う水の量は、
原子炉の圧力容器内だけでも、400トンが必要になります。
これだけの水が、原子炉のまわりを常にぐるぐる回り続けます。
原子力発電は、蒸気タービンによって発電機を駆動させますが、
蒸気タービンで使い終わった蒸気を、復水器(熱交換器)で
水に戻す必要が有ります。
そのために、1秒間に、78トンという大量の冷却水を必要とするのです。
日本の場合、ヨーロッパのような大きな河川や湖がありません。
冷却用として、海の水を利用せざるをえないのです。
そのために大型の原発や火力発電所は、冷却水を豊富に利用できる、
海に面して建てられるのです。
原子力発電所の建設地を選ぶ際には、『冷却水が十分確保できること』
のほか、『地盤がしっかりしていること』や
『充分な広さの用地があること』なども重要な条件になっています」
「ええぇ!・・・・原発や大型の火力発電所は、それほどまでに大量の
水を必要とするのですか。初めて知りました」
「炉心部で、淡水化した海水を冷却用として大量に使います。
原子炉で発生した蒸気を、水に戻す際にもまた冷却水が必要になります。
その冷却用にも、海水を利用します。
つまり、大量の海の水が無いと原発も火力発電所も成り立たないのです。
問題は、このようにして使われた大量の水が、使用後に
すべて、海に排出されるという点です」
「海に放出される・・・それでは、今回の事故で問題になる前から、
海はすでに放射能によって、汚染されていたことになってしまいます!」
「そうした可能性は、否定できません。
しかし。今となってはそれらを確認する手段は、もう残っていません。
なにしろすべてが、立ち入り禁止区域内での出来ごとなのですから・・・・
今回の福島第一原発の事故のため、常磐線はこの広野町が
南側の折り返し地点になってしまいました。
残念ながら、ここから北は、立ち入り禁止区域に指定されているために、
線路の被害状況さえ、いまだに、確認することができていないのです」
「もう、常磐線は、このまま仙台まで繋がらないということですか・・・・」
「復旧に、どれほどの時間がかかるのかは、誰にも解りません。
しかし・・・・復旧にどれだけの時間がかかったとしても、此処に生まれ、
此処に生きてきた大人たちの責任として、子供たちの未来のためにも、
広野は、完全に復活を果たす必要が有ると思います。
広野の童謡は、子供たちの夢と未来の象徴なのですから。
きっと町は復活して、また、元気な子供たちの唄声が聞こえてくると
思います。
原発が無くなる日も、きっと来ると信じています。
そうなってくれるといいですねぇ。私はそのことを毎日こころから
願っています」
「本当ですね。同感です・・・・その通りだと思います。
私もこの街が、そうなることを、こころの底から願いたいと思います」
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第51話~55話 作家名:落合順平