小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載小説「六連星(むつらぼし)」第51話~55話

INDEX|11ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 明るい日差しに誘われて、響が玄関から表に出る。
4月が近づいてくると、東北地方もにわかに春めいてくる。
昨日よりも温かいと感じる、朝の気配が漂っている。
昨日は夕暮れだったため、把握することができなかった町中の様子が、
今朝は朝日の中に鮮明に浮かびあがっている。

 目の前に広がっているのは、古い集落と思われる住宅地だ。
東京から東北の沿岸地帯を貫いていく国道6号線は、市街地を避けるための
バイパス化が進んでいる。
広野も例外ではなく現在の道路は住宅街の西側を、中央分離帯つきの
4車線道路として走り抜けていく。
長い間、幹線としての役割を果たしてきた旧街道(陸前浜街道)は、
響が立っている、古い集落の中心部分を貫いている。

 
 広野の市街地は、海と山にすこぶる近い。
バイパス化された国道6号線と、常磐線に挟まれたウナギの寝床のような、
細長いエリアに、ひとびとの家が集中している。
市街地を外れるとわずかな耕作地が、山の隙間を埋めるように並んでいる。
山裾が海のすぐ近くまで迫っているために、平地はあまりない。


 そんな町の様子をあざ笑うかのように、巨大な建物がそびえている。
東電が作った、火力発電所だ。
敷地を海の中へ大きく張り出して、大きな煙突をデンと天に向かって突きあげている。
火力発電所に隣接しているのが、Jビレッジだ。
サッカーの総合施設として、東電が大金を使って建設した巨大な施設だ。
日本サッカーの拠点になるはずだったが、皮肉なことに今は
原発事故のための、最前線基地として使われている。


 広野駅の広場に設置されている案内看板には、雄弁とは言えないが、
『広野は、火力発電所だけで成り立っている町ではないぞ』という主張が
かすかにだが、にじみ出ている。
広野は小さいながらも、陸前浜街道の宿場町として栄えてきた。
奈良時代にまで遡る、駅(当時は馬を置いた) としての歴史が残っている。
明治以降になると、数々の童謡を産んだ名舞台にもなった。


 あの日の津波は、駅舎のすぐ南まで到達している。
一段低い農地には、水を被った痕跡がありありと残っている。
西に向かって歩きはじめた響が、ポツンと置かれている石仏を見つけた。
"北迫の地蔵尊" と呼ばれ、大切にされてきた古い石仏だ。
道祖神的な役割を果たしてきたもので、今も集落の守り神として
大切に残されている。


 昨日と同様、朝の市街地に人の気配はまったく無い。
途中で見つけた地蔵尊に、誰が供えたのか、新しい花が飾られている。
まったくの無人という訳ではなさそうだが、市街地にとどまっているのは、
やはり、ごく少数に限られているという気配が此処にも漂っている。
商店の表は、すべてがピタリと閉ざされている。
営業している気配を、まったく感じとることが出来ない風景ばかりが続く。

 
 (経済活動している雰囲気を、まったく感じ取ることができません。
 復興活動が遅れている現実を、如実に示している光景です・・・・
 やっぱりここは、無人化に歯止めがかからないまま、
 ゴーストタウンに転落をしていく街なのかしら・・・)


 無人の住宅地を抜け、途中から小さな路地を曲がると、いきなり
国道6号線に出た。
響がいままでとは全く異なる、驚くべき光景を目撃する。
原発へ向かう車が、大渋滞を引き起こしている。
タクシーやバス、何やら荷物を積んだ大型のトラックなどが、隊列をなして
2車線を埋め尽くし、J-ビレッジ方面に向かっていく。
反対車線にも、J-ビレッジ方面から戻ってくる多くの車の姿が見える。


 (なんなの、朝からのこの大渋滞ぶりは。ものすごい交通量ですねぇ。
 まるで原発特需とでも呼べるような、朝の賑わいぶりです・・・・
 これが、5000人を越えるという労働者たちのパイプラインの姿なのかしら。
 国道6号線はいまや、放射能と闘うための人と物を運ぶ大動脈です。
 これがこの先、何年・・・いいえ、何十年もつづくのかしら・・・・)


 国道6号は、立ち入り禁止区域直前にあるJビレッジの施設に向かって
まっすぐ進んでいく。
だがこの道路は、いまは、一般人には全く無縁のものだ。
道路を埋め尽くしているのは、放射能と格闘している人たちだ。
東北の経済活動を支えてきたかつての大動脈は、いまは東電の関係者と、
原発労働者を運ぶための専用道路として、特化している・・・・
あまりもの大量の車の列。
それを見つめる響の背筋に、思わず、寒いものが駆け抜けていく。