第1章 13話 『とある日曜の家探し』
しかし、何回言ったかわからんがまた言わざるを得ないだろう。俺は本当に一体何者なんだろうか。ミナもヒカリも俺のことを『鍵』だのフォーリアとシェルリアの両国の争いを鎮めることのできる希望って言っているが、それは本当なんだろうか。
…いや、何、別に今更これについてどうこう言うつもりもないさ。そんな気力も俺には残されてないからな。それに、昨日の一件で俺にも魔法が使えることも身をもって感じたわけだし。もう俺はこの状況から目を背けないで立ち向かうことを決意したからな。
それじゃ何でそんなことを言うかって?それは、俺が両国の『鍵』っていう存在だからとかそういうのじゃないし、そんでもって、『鍵』だからそれを消してしまおうと画策しているあの魔獣者に命を狙われるからでもない。そんなもんはもうどうでもいいし、聞き飽きた。
…それは、なぜ俺にフォーリアを始めシェルリアの魔力が俺の身体に備わってるっているっていうことだ。まぁ、ヒカリによるとシェルリアの魔力は特殊な例で干渉を受けることによって
備わってしまい、その時の記憶もないってことらしいからこれはどうしようもないからしょうがないとして。
だが、じゃフォーリアの魔力はどう説明するんだ?これは特殊でも何でもないわけだろ。
その家系が魔法使いであるとか、魔法を習っていたとかであるなら話は別だ。
でも、そんな話は聞いたことはまったく皆無なわけだし、俺の家系は至って普通のはずだ。
少なくとも俺の親父は魔法なんか使えないと思うし、親父に『親父は魔法を使えるか?』と訊ねても『おう、使えるぞ』ってなんか答えるわけないだろう、普通なら。
それにだ、俺が実際に親父が魔法を使っているところや親父がほうきに跨って空を飛んでいくとこなんか見たことないし、俺もそんなもん見たくない。…男がほうきで空を飛んでいる姿なんかな。せめてそこは可愛らしい女の子が適切だろう。
っとまぁ話は逸れたが、そういうことだ。…俺は、何者で、何のためにここにいるのだろうな。俺は、雛月春斗で、虹ヶ坂学園に通う高等部2年の普通の学生…のはずだったんだがな。
いろんな考えを頭の中で巡らせていると、少し頭が痛くなってきた。
「…まぁいいや。どうせいくら頭で考えても俺にはこれ以上のことはわからん」
それにヒカリも時がくればいずれ解るって言ってたし、それまでこれは保留にしておくか。まぁ、最もそれが解るのもそんなに遠い未来でもなさそうだしな。
「ん~?春斗、何さっきから独りでしゃべってるの?もしかして、人肌寂しくておかしくなっちゃったとか☆?」
俺が考えに耽っていると、俺の部屋で堂々とゲームをしているかえでが話しかけてきた。
「いや。っていうかそれはどういう意味だッ!!」
「もう、強がっちゃって☆寂しいなら素直に言ってくれればいいのにさ☆ほれほれ、言っちまいなよ、『ボク寂しいよ~』ってそしたらあたしも構ってあげるからさ☆」
意味深にニヤニヤ微笑みながらゲームするかえで。
「へッ!テメェなんぞに構ってもらうほど俺は暇人じゃねぇよ。お前も明日香と冬姫を見習って下で明日の花見の準備の手伝いでもしてみたらどうだ?」
「え~だってあたし料理できないし、下に行っても邪魔しちゃうしさ、あ、もしかしたら手伝うどころか遊んじゃうかもしれないネ~☆あはは」
…おいおい。そんなまだ実行もされてない予想してる時点でダメだな、もう。
そう、昨日ポンと決まって明日は花見をすることになったのだ。それで、今、下では明日香、そして、さっき『明日香ちゃん、一緒に準備しよ~』と冬姫ふわわんボイスで俺の家にやってきて冬姫も明日香と一緒に準備をしているのだ。
まるで遠足に行く前日に決められた額のお菓子をどれにしようかと心躍らせ決めているようだな、アレは。二人ともわいわい騒ぎながら明日の仕込みとかを今も楽しそうにしてるもんな。…この部屋にいても二人の声が聞こえるくらいだし。
まぁ、楽しい気分で準備することは悪いことじゃないからな。料理だって人の気分次第で味が変わるってこともあるわけだし。…ふーん、ってことはよく店のメニューにある『シェフのきまぐれ』とかはそうかもしれないな。
まぁ、そんなわけで皆、各々明日の準備をしているわけだ。
ん?俺か?俺は、もちろん決まってるさ。明日の荷物持ちという重要な任を仰せつかっているのだ。いや、これは楽そうに見えて結構大変なんだぜ。重いし疲れるし身体はヘトヘトになるわでそれはもう重労働だ。
これなら明日香たちと代わってそっち用意したほうが数段マシなんだが、女の子に重い荷物を持たせるわけにもいかないからな。てなわけで俺は、荷物持ちを快く引き受けたというわけだ。
「それなら、こんなとこでゲームなんかしてないで明日持ってく物でも準備したらどうだ?それぐらいならお前にでも出来るだろ」
「ん~。明日持ってく物…あるのかな?別に持っていきたい物なんかないし、特に必要な物もなさそうだしネ~」
「…かえで、俺は本気でお前の将来が心配になってきたぞ」
こんなんで本当に大丈夫なんだろうか。
「まぁ、それはいいとして、そろそろ眠くなってきたから帰るかな」
かえではコントローラーを床に置き、ゲームの電源を切ると大きく伸びをしながらそう言った。
「おう、帰れ、帰れ。俺もそろそろ風呂入って寝ようと思ってたしな」
俺は手をひらひらとさせて、かえでに帰るように急かしていた。
「ん~そうか。それじゃちょうどいいネ~☆グッドナイナイ~☆」
わけのわからん挨拶をしてかえでは俺の部屋を後にする。
「さぁて、身体もダルいし明日も早いしさっさと風呂入って寝るか」
そう思うとかえでに続いて俺も風呂に入るべく部屋を後にするのだった。
「はぁ…はぁ…はぁ」
ここまで来れば大丈夫ですの。彼の姿も彼の魔力も今は感じられませんし。
私は何とか彼の追跡から逃げ切ってあの森から出ることに成功し、森の出口にある中継ステーションから転送装置でご主人様のいるこっちの世界へやってきたのであった。今も念のため草陰に隠れながらしばし休息をしている最中だった。
…彼もこっちに来ているかもしれませんので。
「…でも、はぁ…はぁ…困りましたですの。はぁ…はぁ…思ったよりもダメージを受けてしまいましたですの」
私は魔法によって受けた傷と草や木々の枝によって出来た傷を擦りながら思わず口から洩らす。それはそうですの。地盤が悪いところや道から外れたところを逃げ回れば当然ですの。
でも、彼ったらお構いなしにバンバン魔法使うなんて卑怯ですの。私が大して魔法使えないのをわかってるのにも関わらず。…まぁ、それは私がこの森を抜け出そうとしたから仕方ないですの。
でも、私は抜け出さねばいけなかったんですの。だって、ご主人様に危機が迫っているんですもの。こんなところでじっとなんかしていられませんですの。ご主人様を救うべく私はご主人様の元へ行かねばなりませんですの。
「でも、ホント困りましたですの。森からやっと抜け出したのはいいのですけど身体がこれじゃすぐには動けないですの。それに…」
私は、くるりと辺りを見渡す。
作品名:第1章 13話 『とある日曜の家探し』 作家名:秋月かのん