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秋月かのん
秋月かのん
novelistID. 50298
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第1章   13話   『とある日曜の家探し』

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「それにですね、今日はヒーちゃんもいますのできっと盛り上がると思うんですよ♪いつもはヒナちゃんと私の2人ですが、今日は3人ですよ♪3人☆これは凄いレースになると私は思うんですよ♪ねぇ?やりましょうよ☆ヒナちゃん♪」

輝かしいばかりに目をキラキラとさせるミナは、凄く楽しそうだった。
しかし、俺はそんなミナの肩をつかんでこう告げるのだった。

「やりません」

「あぅ~そんな」

さっきまでの輝かしい笑顔はその一言で一瞬にして消え、まるで縋るものがなくなって絶望のどん底に突き落とされたそんな表情に変貌を遂げていた。そして、ガクっと肩を落とし、フラフラとした足取りでミナは空き家までの案内しますと、聞き取れないくらいの小さな声で言うと歩き始めた。…そんなに競争したかったのか。

「おい、何かあったのか?」

落ち込んでるミナが気になったのかヒカリが俺に訊いてくる。

「ミナもこれで一つまた大人になったになったことだろう」

「???」

よく事情把握できないヒカリの頭にクエスチョンマークが飛び交う珍しい表情を見て俺はミナに続いて歩き出す。そして、少し遅れてヒカリも後からついて来る。

こうして俺たちはミナとその空き家を目指して歩き出すのだった。




「着きました。ここです」

足を止め、立ち止まるミナがそこを指差す。

「ここか。ホントに近かったな」

ミナに連れられて俺たちはオレンジ色に染まった空の下を『元』ミナの所有する空き家を目指してテクテクと歩いていた。そして、ミナが言った通りさっきの場所からそう遠くない空き家のあるこの場所まで到着したのだった。

その空き家というものは、ミナたちの所有だけあってかなり豪華なものだった。
入り口には門があり、建物は俺の想像していたものとは大きく外れ、外面的な外装を見るかぎり空き家っていうより大きな屋敷だな、これは。…ホントに空き家か?

近隣の環境状況は街から少し離れているせいか住宅地が少なく、車とかもそんなに通ってなく物静かな場所だった。これらを惜しみなく見せ付けられた俺は、改めてミナがお嬢様だということを思い知らされた気がした。

「ほ~。中々いいとこじゃないか。周りは静かだし、住宅地も少ない。気に入ったぞ」

何だか上機嫌なヒカリ。…あの、ヒカリさん。家の評価は?あれだけ、探し回ってその物件の批評とか文句言ってここは環境だけですか。結局はそれですか。

俺はこめかみを押さえつつ、気を取り直そうと残っているわずかな気力でフルに活発化させる。

「まぁ、よかったな。やっと寝泊りできる家が見つかって」

取り敢えず何とかこれだけを言っておく。
まぁ、これで俺の生活及びその他の侵害されることはなくなったわけだからな。

「気に入ってもらえたようで本当によかったです。これからはここがヒーちゃんの家ですよ。もう屋上で寝泊りしちゃダメですよ」

「煩いッ!!余計なことは言うな」

「…あぅ。すいません」

ヒカリに怒られつつもミナは嬉しそうな顔で対応していた。…これを見てるとホント仲のいい2人なんだけどな。きっと、向こうにいたころは本当にこの2人は凄く仲がよかったに違いない。シェルリアとフォーリアが敵対なんかしなければ今もそんな関係が続いていたんだろうな。

「あはは。…あれ?ヒナちゃん、どうしたんですか?」

考えに耽っていると、ミナが話しかけてきた。
まぁ、今は余計なことはなしだな。今の俺にどうこう出来るわけでもないしな。

「何でもないよ。ただ、ミナとヒカリを見てたら楽しそうだなと思ってな」

「はい、楽しいですよ」

楽しそうに微笑むミナ。

「私は別に楽しくなんかないぞ」

素直じゃないヒカリ。

「そうかい」

俺は軽く微笑んでみせる。

「何かその笑みが気に喰わんが、まぁいいだろう。さぁ、もう貴様らは用済みだ。とっとと帰れ」

むすっとした表情で帰れと手をひらひらさせていた。

「へいへい。言われなくても帰るさ。行こうぜ、ミナ」

そう言うとくるっと反転し、手を上げてじゃあなとヒカリにすると、ミナに声をかけここを後にしようとする。

「あ、ヒナちゃん待ってください。じゃあ、ヒーちゃんまた明日のお花見で。さようなら」

ミナもヒカリに挨拶を済ませると、俺の後を追いかけてついてくる。
俺たちは門を潜って外に出ると、どちらからともなく足を止め、俺はミナに話しかける。

「しかし、ヒカリのヤツ本当に素直じゃないよな」

「え?…あぁ、ふふふ。そうですね、でも、向こうにいた時は凄く素直でしたんですよ。言いたいことをズバって言って先生も生徒、それに悪い人とかも圧倒してました。恰好よかったです。私が困っている時にいつも助けてくれたんですよ」

「そうなのか?」

うーん、あのヒカリが素直ねぇ~想像できん。
それに後者はいいとして、前者は素直っていうのか?

「まぁ、ヒーちゃんはホントは優しいんですよ。だから、ヒナちゃんもそんなこと言っちゃダメですよ。また、怒られちゃいますから」

「…それは確かに勘弁だな」

あの般若のような顔で怒られるのはごめんだ。…夢に出るからな。

「あはは。冗談ですよ。ヒーちゃんはそんなことじゃ怒りませんよ。きっと」

あの、ミナさん。『きっと』って真偽はわからないってことですよね。それじゃ、冗談って言わないような…。とツッコもうと思ったが止めておいた。

「まぁそれはいいとして。今日はミナありがとうな。いろいろと」

「そんな、別にいいですよ。このままヒーちゃんを屋上で寝泊りさせるわけにもいかなかったですし、それに、ヒナちゃんも困ってましたから…。でも、お役に立てて本当によかったです」

夕日のせいで余計に赤らめていた頬をもう少し赤らめてミナはにっこりと微笑む。

「あぁ、ホント助かったよ。ありがとうな」

俺はミナの頭をさわさわと優しく撫でてやった。

「…えへへ」

頬をさらに紅潮させながらも嬉しそうに頭を撫でられていた。

「それじゃ、帰るか。もう身体も足も限界でくたくただ。早く帰ってゆっくりと寝転びたいぜ」

それにたくさん歩いたせいか腹も空いてきたし、これは今日の夕飯は美味しいな。

「そうですね。私も買い物から帰る途中でしたのでそろそろ帰らないとですね」

そう言うと俺たちはそれぞれの家路につくのだった。



「…なんてダルいんだ。身体も足ももう動かん」

俺はベッドで仰向けに寝転び、天井にある模様のようなもんを見ながらふと口に洩らす。
そりゃそうだよな。朝起きたらヒカリがいて、そんでもって半日ヒカリの家探しでここいら一帯歩き回ったんだからな。それは身体も足もヘトヘトになるわな。

で、結局、探し回った挙句、ミナに助けてもらったしな。…何やってんだろうな俺たちは。
まぁ、結果はどうあれヒカリの家は無事に見つかったし、俺の平穏が少しだが戻ってきたし、これはこれでよしとしようじゃないか。まぁ、それも今だけかもな。来週からはミナ先生による魔法の特訓?なるものが待っているからな。