第1章 13話 『とある日曜の家探し』
「それが出来たらとっくにやっているさ。。それに貴様の家になんか行かないだろう。魔法もそんなに便利なものでもないということさ」
「…確かに」
俺と同様、歩き疲れて息が切れ始めたヒカリは肩をすくませ、そう答えた。
仕方ねぇな。これだけは激しく回避したかったが俺の足も身体も体力的にももう限界だ。
それに、明日は花見やるって言ってたし、これ以上は明日に支障をきたす。
明日香や姉さん、冬姫にいろいろと問い詰められそうだが、致し方ない。
…恐ろしいがな。内心、恐ろしさでガタガタブルブル震えてきやがったぜ。
俺は覚悟が決まると、ヒカリにその意を伝えようと口を開こうとする。
「あれ?ヒナちゃんとヒーちゃん?」
声のする方に視線を向けるとそこにはミナが買い物袋を持って立っていた。
…うーん、微妙に紛らわしいなその呼び方。まぁ、別に気にしないけどな。
「お~ミナ、買い物か?」
「はい。今日は私が当番でしたので。それに明日、お花見ですので。それよりこんなところで何をしていたんですか?何か凄く疲れているみたいですけど」
ミナは心配そうな顔で俺たちの心配をしていた。さっすがミナだな。
こいつとは違ってホント優しいな。
「実は、ヒカリの住む家を探していたんだ」
「え?ヒーちゃんの?でも、それまでヒーちゃんどうしていたんですか?」
ま、当然の疑問だよな。俺もそうだったし。
俺はミナに近づいてヒカリに聞こえないように耳元で小声で話す。
このときミナがなぜか頬を紅潮させたのは言うまでもないだろう。
「それがよ、ヒカリのヤツ学園の屋上で寝泊りしてたんだってよ。あるだろ、学園に東館にあるあの大きな屋上」
「はい、ありますね。え、でも、本当にあんなところで寝泊りしてたんですか?それは何と言うか…」
「あぁ、俺もそう思ったが、でも、どうやら本当らしい」
「そうなんですか。それじゃ…」
「おい、貴様ら全部聞こえてるぞ」
俺たちはヒカリの声で身体がビクっとなってしまった。
…聞こえてたのかよ。
「まぁ、そんなわけで俺とヒカリはこうやって家を探し回っていたのさ」
「そうでしたか。言ってくれれば私もお手伝いしましたのに」
ミナは優しさ溢れる言葉を俺たちに言ってくれる。
…ホント
「フン!貴様には関係ないだろう。そんなことはせんでよい」
とミナの言葉なんか聞く耳持たんといった感じで冷たく返すヒカリ。…おいおい、
そんな言い方ないと思うぞ。
「…すいません」
ミナは悲しげな表情でしゅんと俯いてしまった。
…ほら、言わんこっちゃない。
この娘はお前と違ってデリケートなんだから。
ただでさえお前の言葉はトゲトゲしいんだからそれじゃミナなんかどうしようもできなくなってしまうだろ。
「まぁまぁ、そんなギスギスすんなって。別にミナは何もしてないんだからそうツンケンしなくてもいいだろ。そうだろ、ヒカリ?」
「フン…まぁそうだが」
珍しく何とか俺の意見を訊いてくれたみたいだ。
「だろ。それじゃ、ツンケン解除して普通にだぞ。普通に」
ってしまった!こいつの『普通』は『普通』じゃなかったな。これじゃいつもと変わらん。
という俺の心配をよそにヒカリは腕を組んで、
「まぁそんなことはどうでもいい。それより、家だ。もう日も暮れてきた。急がないと夜になってしまう」
どっちなんだよ。…っていうかホントどうすっかなこいつの家探し。
「…あ、あの、そのことなんですが」
さっきまで俯いていたミナが復活して話しかけてきた。
「ん?何だ、ミナ」
「私の知り合いの方で以前まで住んでいたのですがめでたく結婚されて、海外に移り住んでしまったんですよ。その家は今はもう空き家で誰も住んでいません。所有も元々私たちの家の者でして、利用したいとなればいつでも大丈夫なんですがどうでしょうか?あ、別にもう誰も使わないので自分の家にしても全然いいですよ」
ミナは今の俺たちのこの状況にとって願ったり叶ったりの非常に助かる提案をしてきた。
それは、ありがたい。そうすれば、俺の家でこいつを世話せんでもよくなるし、俺の問題も即解決だ。ナイスだ、ミナ。
「おい、ヒカリ、そうさせてもらえよ。このまま探し回ってアパートの個室よりか全然いいじゃないか。しかも、自分の家にしてもいいんだからな」
「しかし、フォーリアの手助けを受けるなんて許し難いことだぞ」
「誰もそんなことでどうこう言わないって。ヒカリ自身だけの問題だろ」
「だーかーら、許し難いんじゃないか。私はシェルリアの人間でアミーナはフォーリアの人間で敵対関係にあるのだから大問題だ。いくら困っているとはいえフォーリアの情けは受けん」
このガキ、さっきから黙って聞いてればナマばっかり言いやがって。わがままにも程ってもんがあるぜ。…よし、こうなったらやるしかない。このお子様に世間の波ってもんを教えてやるぜ。いざッ!!
と意気込んだ俺であったが、ヒカリが怒ることは明白であのこの世のものとは到底思えない恐ろしい形相が頭に浮かび恐怖し、結局何も言えないという有様だった。
…我ながらホント情けない。
そんな、情けない俺をフォローするかのようにミナが口を開く。
「それでは、こうしたらどうでしょう。その空き家は私たちは一切関与しません。所有も最初からヒーちゃんということでどうですか?」
とミナが提案する。
「確かにそれなら誰の手も借りず、誰にも咎められずに済むな。それに敵対にこだわるヒカリもこれなら文句ないんじゃねぇか?これならフォーリアの手助けにはならないだろ、どうだ、ヒカリ?」
「…そうだな。それなら住んでやってもいいぞ」
ヒカリは、むすっとした顔で答えた。
…どこまでも素直じゃないヒカリであった。
「よし、決まりだな」
「それでは、案内しますので私について来てください。幸いここからその空き家まで遠くはないのであっという間です」
「っとミナそんな重そうな荷物持ちながらじゃ疲れるだろ。持ってやるよ。ほれ、貸してみれ」
「え?大丈夫ですよ、これぐらい」
「遠慮するなって。ミナは家を提供してくれるうえに案内してくれるんだからそれぐらいのことはさせてくれ」
「…ヒナちゃん。はい、それじゃ、お願いしますね」
そう言うと俺はミナの持っていた買い物袋を持ってやる。…って重ッ!!
全然大丈夫じゃないじゃねぇか。それとも、ミナって意外と力持ち??
でも、そうか、それは助かるぜ。もうホント足が限界だったからな。
これ以上の遠出は無理そうなんでな。
と安堵する俺を尻目に、ミナがもじもじしながら近づいてきた。
「…あ、あの、ヒナちゃん?」
「どうしたんだ、ミナ?何かあったのか?」
もしかして、トイレか?
すると、ミナは、
「あの…ですね。空き家まで競争しませんか?」
途端に子供が翌日の遊園地を楽しみに待ち望むかのような楽しげな表情になるミナ。
「………」
途端に『………』になる俺。
作品名:第1章 13話 『とある日曜の家探し』 作家名:秋月かのん