第1章 13話 『とある日曜の家探し』
「フン!いいじゃないか、そんなこと。別に減るもんじゃないだろ」
「…いや、そういう問題じゃなくてだな」
「その前にアミーナの家に泊めてもらう時点でそもそも間違っているぞ。前にも言ったが、私とヤツは…」
「敵対しているって言うんだろ、わかってるさ。でも、それはお前らの国の問題でミナとヒカリは直接的には関係ないんじゃないか。シェルリアの人を捕らえようとしたのもミナじゃないわけだし、ミナがシェルリアをどうこうしようとしてるわけでもない」
それにミナだったらヒカリが頼ってきたら大喜び、向日葵笑顔満天になること間違いなしだろう。目を閉じただけでもその光景が浮かんでくるぜ。
「フン!甘いな、馬鹿者が。ヤツが直接関わってなくてもフォーリアの人間っていうだけで十分敵対する動機になるんだよ。それに、アミーナはフォーリアでは知らない者はいないくらいの凄腕の魔法の持ち主だ。それはもちろんシェルリアでもな。貴様は知らないだろうが」
「知りたくもないけどな」
こいつとんでもなく素直じゃねぇな。意固地にもほどがある。
しかし、ミナって向こうじゃ凄い有名人なんだな。何だか嬉しいのやら何とやらだな。
「まぁ、そんなわけで昨日はここに泊まらせてもらったのさ。…フフフ♪ついでにこれからも貴様のお世話にならせてもらうぞ」
「ってちょっとマテ。さらりと居住の申請すんなよ。ナニ勝手にお世話になろうとしてるんだ。まだ、俺は何も言ってない。それに、俺の家はダメだとこの前断ったはずだ」
さっき自分でもそう言っただろうが。
「…いや、そんな昔のことは覚えてないぞ」
「………」
要するに、自分に都合が悪いことは知ったこっちゃないってことか。
なんて自分勝手なヤツだ。さすが、お子様。ダテにそのナリしてないな。
「おい、貴様調子に乗るなよ。この前は見逃してやったが、今回は見逃しはしないぞ。この私を侮辱するようなその愚かな脳は私自ら破壊してやる」
ヒカリは鋭さがいつもよりも増した憎々しげな目で俺を睨め付け、押し殺した声で俺を射る。
「すみません。俺が悪かった。だから、その振り上げた扇子を下ろしてくれ」
意外にも俺は素直に謝った。…だってよ、こいつはホント何するかわからないからな。
こいつが言ったことはホントに決定事項だ。殺ると言ったら殺る…恐ろしい。
「フン!なら、償いとして私を貴様の家に置け。それで許してやろう」
「それとこれは別問題だ。それは出来ん」
「いいじゃないか。別に貴様らに迷惑はかけん」
…いや、現に今、俺が迷惑してる。これ以上俺をロリコン疑惑をかけるんじゃない。
つーことで、十分迷惑してる。頼む、やめてくれ。
「…フフフ♪それに」
ヒカリはニヤニヤとした目で俺を見つめてくる。…なんだよ。
「こんな可愛い女子がタダでひとつ屋根の下で一緒に暮らすんだぞ。貴様にとって悪い話じゃないだろう?もしかしたら、あんなことやこんなことな展開もあるかもしれないぞ?」
「遠慮しておく。俺には恐怖の展開しか想像できん」
それに自分で可愛い女子って…。
うーん…可愛い『女の子』の間違いじゃないか。
「それにこの布団といい枕が気持ちよくてな。寝ながらギュっとするとほどよい感触でしかも温かい☆貧弱な人間の作り物としてはまぁまぁだ。この地も捨てたものじゃないな」
それは俺の腕だ。さっきまでしがみ付いていて気づいてないのか?
ホントご都合主義なヤツだな。…仕方ない。
「わかった。それじゃこうしよう。今から、ヒカリの住む家を一緒に探してやる。これで勘弁してくれ」
「ん?そうか。私は貴様の家でもかまわんが」
…俺がかまうんだよ。
「まぁ、探してくれるのなら助かる。では、そうしてもらうとするか」
「そうしてくれ」
やれやれ、まったくヒカリは…。
朝から疲れちまったぜ。しかも、せっかくの休みなのにだ。
…はぁ、どうしてこんなことに。俺の平穏な生活がさらに遠ざかっていく。
こうして、俺はヒカリの家探しをすることになったのだった。
お昼下がりの午後に俺とヒカリはヒカリの住居を探すべくテクテクと住宅街を徘徊していた。
「それで、貴様はどこに行くつもりだ?どこか当てでもあるのか?」
「んなもんねぇよ。取り敢えずここらのアパートを順に散策だな」
「それはまた面倒くさそうだな。それならやはり貴様の家でいいじゃないか」
「それはダメだ。今度は俺が生活不能になるからな」
そんなことしたら明日香に姉さん、さらには、冬姫の恐ろしい尋問が待っていることであろう。きっと、とんでもない問い詰め合戦が繰り広げられるだろうさ。
それだけは回避したいもんだ。
「っとヒカリ、あれはどうだ?」
あれこれ話してる間に、最初の物件に到着した。
見た目中々いい感じな外観をしてるし、ここからなら学園もそう遠くはない。
文句ない立地条件じゃないか?…家賃は知らないが。
「…貴様の目は確かか?あんなの全然ダメだ」
ものの数十秒であっさりと否定されてしまった。
「そうか。俺はいいと思うけどな」
「貴様の意見は訊いてない。私が住むのだからな。ちゃんとした宿でなければ困る」
「そうは言っても、ここはちゃんとしてると思うぞ」
俺はもう一度アパートを見て、ヒカリに言ってやる。
…だが。
「よく見てみろ、あの柱を。基礎ともいえる所にひびがかなり深く入っている、耐震強度が悪いだろう??当然、論外だ」
…確かに。でも、この距離でよくそこまで見えるな。
お前、視力いくつだ?さらに、次いでヒカリは、
「それに、あの建物の大きさで無駄に部屋数が多いことも欠点だ。あれじゃ、本来の部屋の半分しかなくなってしまう。…ここの責任者をここに呼んで今すぐ作り直してもらうか」
…おいおい、そこまでする必要ないだろうが。
っていうか細かッ!!いいだろ、住めれば取り敢えず。我侭も大概にしやがれ。
それに他もこんなの多いと思うぜ。別に一戸建ての家を建てるわけじゃねぇんだし、マンション買うわけでもないんだしよ。
学生の身分でわがまま言ってなんかいられないぜ?
「ここはダメだ。私の視界にも入れたくない。所謂、眼中に入らんってヤツだ」
わがままなお子様だ。
「んじゃ、仕方ない。次の場所へ行ってみるか」
俺は大きく伸びをし、軽く肩を回すと次の場所に移動するのだった。
でも、次の物件でも、そのまた次の物件でもヒカリはことごとくその物件を批評し、中々ヒカリの住む場所が決まらなかった。かれこれあれから探し回って7件目だ。
一体、どんな物件だったらいいのだろうなこいつは。もういいかげん決めちまえよ。
俺の足もそろそろ限界だぜ。
俺はもう限界な足を擦りながら、延々とそんなことを考えていた。
頭の片隅ではもう俺の家でもいいよという考えもそこにあるくらいな状況に陥っていた。
それにもう空もオレンジ色になり始め、そろそろ夕方になろうとしていたからな。
「なぁ、ヒカリ。思ったんだが魔法かなんかで家は作れんのか?」
ふと気になったのでヒカリに訊いてみた。
作品名:第1章 13話 『とある日曜の家探し』 作家名:秋月かのん