小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
みやこたまち
みやこたまち
novelistID. 50004
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

御伽五話

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

四 戸村



 格納庫でも体育館でもいいのだ。つまりそこで盛装の紳士淑女達がパーティーをしてさえいれば十分だ。鉄骨の骨組みに木造の屋根を載せた建物ならば、尚のこと好都合だ。屋根裏には足場があり、身を隠す材木が縦横に走っている。高窓に沿ったキャットウォークから、間仕切り用のネットを伝って、水銀灯の眩しい天井に到達する。突き当たりの鉄梯子を登って、点検口から天井裏に入れば、そこは、脆い足元から光の漏れる、薄暗い夜の廃墟そのものだ。
 戸村は、決して大勢の前には姿を見せない。こっそりと宴を抜け、屋根裏に逃れた若い男女にすら、その熱い息と血のたぎりは隠されている。今、男が憮然として出ていって、女が一人とり残された。梁を伝って、破れた緞帳の向こうから、戸村は、真紅のイブニングドレスの女の胸元を飾る薔薇の飾りに狙いをつける。
 歪んだシルエットが女の背中に落ちて、細く狭い階段の踊り場でなすすべなく白い肌が血飛沫に染まる。下では怠惰なダンス音楽が鳴り止まず、喧騒とお世辞の真っ最中だ。
 真っ赤に染まった女。天井を抜けて、一輪の薔薇のように髪を乱してくるくると、最初は首、続いて剥き出しの腕。ピンヒールを履いた足が最後に、特別誂えの噴水池の中へ、はでな飛沫をあげて、ぽとりぽとりと落ちる。
 主催者のアナウンスよりも早く、原色に糊塗された人々が出口へと殺到する。何人かは捻れて死んだ。何人かは潰れて死んだ。しかし、まだまだ、生きた人間の方が多いから、そして、出口は決して開かれないから、戸村は上方でゆうゆうと、女の子宮のあたりに下をのばしている。

作品名:御伽五話 作家名:みやこたまち