御伽五話
三 水底の
小学校以来、音信の途絶えていた友人が、この夏、貯水池の水番になって戻ってきた。私はそこの金網にもたれて彼を待っている。貯水池は清掃のため水が抜かれつつあり、下流では一つの村が沈んだのだ。そう空想しながら彼を待っていると、不意に肩を叩かれた。彼はニコニコと笑いながら
「君の趣味は歪んでいる」
と言う。
「僕は、完全な物が好きなんだ」
と躍起になって反論していると、反対側からも肩を叩かれた。すっきりと痩せた、これも彼と同じくらい音信不通だった幼馴染が、笑っている。
午後の陽射しが、水面で幾万にも弾け、帽子の鍔を持ち上げる。淀んだ水は緑で、半透明の裾を引きずりながら気まぐれに吸い込まれていく。水路沿いの桜並木は満開で、ときおり花びらが緑に散る。
「こいつが、水路を塞いじまうんだ」
彼はいまいましげに舌打ちする。膝ほどの嵩になった水底に、幼馴染が何かを発見する。
「――だ!」
聞き返す暇もなく、彼女は桜を縫って走り去る。僕の目には、ただの緑の水と幾万もの光だけしか映らない。
彼が小さく声をあげ、一点を指し示した。そこに僕はようやく二人の見つけたものを発見する。赤と緑のずんぐりしたものだ。名前を探しながら、私もその一点を指差す。
「あれは、サンダーバードだ。しかし、なんだろうか?」
彼は挑発的に瞳を光らせる。僕はその時、ある一つの物体が明らかな像を結んだので、間髪入れずに叫んだ。
「サンダーバード2号だ。ずんぐりとした形。ジェット噴射口の二つの赤。間違えっこなしさ」
彼は下唇を噛んで、貯水池に飛び込む。はでな水音と飛沫とが、私の帽子を吹き飛ばす。やがて、緑になった彼が水底からその物を掴み挙げてこちらに振る。逆光になってよく見えなかったが、それはサンダーバード2号ではなかった。
ずんぐりとした形。ジェット噴射する二つの黄色。それは、サンダバード4号だった。
戻ってきた彼と、現れたサンダーバード4号とを見比べながら、僕は
「色だ」
と呟いた。彼もやはり
「色だよ」
と呟いて、フェンスの上に危なげに乗っているサンダーバード4号の黄色を見つめている。