御伽五話
ニ 十歳と十三歳の姉妹
私はこの家に招かれている。中に入ると騙し絵のような空間が曲芸をしている。吹き抜けを見下ろす廊下の突き当りには、障子の腰窓があって、内側には木のベッドが三つ並んでいる。腰を屈めて首を差し入れ、直角に捻ると、その部屋の突き当たりの壁には、やはり障子の腰窓があって、内側には木のベッドが並んでいるのが見える。首を抜き出して目の前の壁を撫でてみるが、入り口らしきものは見当たらない。当惑して、吹き抜けを見下ろすと、遠くに白く光る細い筋が見えた。あれは、川だろうと思う。
再び階段の上り口まで戻ると、突然に、廊下が奥へとのびていて、左手から、家族の団欒が漂ってくる。私は遅れた詫びを言いながら、その団欒に加わる。主人も奥方も見えない。ただそこには、十歳と十三歳の姉妹がいて、豆のスープを飲んでいる。カウンターの奥では、冷蔵庫が何かを咀嚼するような物音を立てている。
十三歳が私にスープをくれる。私はそれを啜る。冷たく冷えたスープで、喉にニガリのようなものが残った。
ようやく皿を片付けると、遅れた詫びを言いながら一人の男が入ってくる。だが、姿は見えない。ただ、十歳がそわそわし始めるので、それと知れる。
「そうです。せんだってにはね、庁舎の主事がやってきて、玄関先に記念碑を建てていきました。何、天然石の大ぶりなやつですよ。はは、出入りに難儀をするほどです」
さては、あの邪魔な石のことだろうと、私は見当をつける。主人はまんざらでもないように、髭を撫でているらしい。喉に残ったニガリをまとめて吐き出し、席を立とうとすると、十三歳がもう一杯のスープを私の前に置いた。
やがて、夜も吹け、十三歳に手を引かれながら私は件の部屋に案内される。屋外に面した窓があり、その隣にはコインを入れると電源が入るテレビがある。
十三歳の身体は細く冷たく、頑なだ。私は寝つかれなかったので、十三歳を解放する。屋外にテントを張って、固形燃料で湯を沸かしたかったためでもあったが、一人になると、私は自分の身体を持て余した。壁土をはがしながら、私はまたもや階段の上り口に立って、縦横に走る廊下を眺めている。すると、腰窓から十歳が覗いているのが見える。
「君も寝疲れないのか」
そう言うと、十歳は身体を丸めて飛びついてくる。そして、私は先程のベッドとは別のベッドに十歳を包んで眠る。