リコーダーが吹けない(零的随想録1)
ダッシ先生
中学2年の時に数学かを担当した先生は、そういった微妙な立場の先生ゆえの特長というべきか、例にもれず周りでは噂ばかりされていた。いわく、あいつは女子生徒のスカートをめくるらしいだの、着替えを覗いているだの。彼にとっては嫌なことだったろう。噂が、というより、変態と学校で思われることが、である。彼はその時すでに既婚者であったから。子供もいたとかいなかったとか。
そういう先生であったが、彼はまた、格好のターゲットになる理由をほかにも持ち合わせていた。
記号ダッシュ(´)を、ダッシと呼んでいたのだ。三角形の合同や相似を示す時、三角形の名前は基本的に頂点の名前を並べて記すが、合同や相似の場合の三角形は、どういう了見か、問題作成者がABCとA´B´C´のように書いているのだ。要はアルファベットが同じであることで暗に合同や相似であることを示しており、これによって問題を解きやすくしているのだが、その時そのような問題の解説をしていたその先生は、その記号をダッシと呼んでいたのだ。それも一度に限らず複数回。彼はもごもごしゃべるタイプではなく、聞き違えということは起こらないほどハッキリしゃべる人だったから、なおさら耳に残るのだ。そうして卑猥な話をする男子に「お前はダッシか」というような表現を返すことが起こり、彼はダッシ先生と呼ばれるようになった。
僕が話したいのは、彼が数学の先生なのに数学用語を間違えたということではない。確かに間違いだった。しかし先生がではない。
生徒だ。
実はダッシュという記号は、ダッシと呼んでもかまわないのである。事実国語辞典にはそう明記されている(それがたとえ子供用であっても)。地方によってはダッシと呼ぶ地域もあるそうだ。
子供社会というのは本当にデマが多いな、とそれを国語辞典で見た僕はつくづく思った。
作品名:リコーダーが吹けない(零的随想録1) 作家名:フレンドボーイ42