誕生日って幸せな日?
隼人「君の顔面白いね。どんどん変わってく。まるで日本の四季みたいだよ。君は僕を殺すんだろ?どうぞ。」
瑞希「じゃあ、お前を警察に連れてくってのはどうだ?」
隼人「僕、何をしても捕まらないんだ。今までも何をしても保釈。悪いね。もし、仮に僕が捕まっても父がなんとかしてくれるのさ。君の負けだよ、瑞希君。」
ナレーター2「瑞希は何も言えなかった、何もできなかった。瑞希はそれから無言で帰るしかなかった。」
場面がかわる
瑞希が居間に入ってくる
美穂がゆりに宿題を教えている
美穂「おかえり、瑞希にぃ。」
瑞希「あぁ、ただいま」
元気がない声が返ってくる
美穂「さっき、瑞希にぃの友達から電話あったよ。阿部隼人って人。『瑞希君、明日も学校で会おう』だって。」
瑞希の目つきが変わった
瑞希「あいつ・・・。」
美穂「なんか変わった人だね。」
瑞希「あいつになんか言われたのか?」
美穂「いや、違うよ。だって『瑞希君、明日も学校で会おう』だなんてわざわざ電話してくることじゃないでしょ。瑞希にぃ、なんか様子変だよ?どうしたの?」
美穂は瑞希の反応にすぐに気づいた
瑞希「なんでもない。そんなことより兄貴どこだ?」
美穂「なんか今日はおそくまで練習だって。高体連近いからだと思うよ。」
瑞希「そっか。最後の試合だもんな。」
少し残念そうな瑞希
美穂「なんか今回の試合の結果によっては大学が決まるらしいよ。スポーツ推薦?とかって言うのかな。」
瑞希「兄貴は相変わらずすげぇな。俺とは大違いだ。やっぱり夢があるゴリラはちげぇな。」
美穂「いないとこで言わないで。ただの悪口になるんだから。」
急にゆりが話に入ってくる
ゆり「さて問題です。夢には必要なものはなんでしょう?」
美穂「努力、忍耐力、親の応援、泥も飲めるくらいの覚悟、そして最低限の資金。」
瑞希「ぜってーちげぇーだろ(笑)」
ゆり「正解!!」
瑞希「えぇ?まじで?」
美穂「こんなの鼻くそレベル。」
瑞希「おい、言葉選べよ、一応女子なんだからよ。」
美穂「一応ってどうゆーこと?」
ゆり「瑞希にぃ、早く謝んないと撃ち殺されるよ!」
瑞希「え?撃たれんの?俺・・・。美穂はできる女だよな!なぁ、ゆりもそう思うだろ?」
ゆり「思う!」
美穂「そんなことないよ。」
瑞希小さな声で
瑞希「ふぅ。命拾いした。」
美穂「んぁ?」
瑞希「いえ、なんでもありません。」
ゆり「あとね、瑞希にぃ、お父さんがさっき瑞希にぃ探してたよ!」
瑞希「親父が?また説教か?あ~めんどくせぇ。」
美穂「なんか、深刻な顔してたよ?一応、話した方がいいよ。」
瑞希「あぁ。そうだな。」
窓からゆりが外を見て言う
ゆり「なんか、急に雨降ってきたみたい!」
美穂「そしたら、私傘持って健にぃ迎えに行ってくる。」
ゆり「ゆりも行く!」
美穂「もう遅いからゆりはお留守番。瑞希にぃはお父さん待ってると思うからのお父さんの部屋行って。それじゃあ、私行ってくるね。」
瑞希「あぁ、わかった。」
ふくれながらゆりも答える
ゆり「は~い。」
美穂が家を出る
場面がかわる
瑞希が父の部屋にノックして入る
瑞希「親父、入るぞ。」
父「おう。瑞希か。帰ってたのか。」
瑞希「さっきね。美穂が『行け』ってうるせぇから来た。なんだよ?」
互いに目を合わせない
父は外を見ながら話し始める
父「むかーし、むかーし、あるところに愛し合っている二人の会社員がいました。男の名は健三。女の名は希望(のぞみ)。」
瑞希「なんの空想だ?俺は空想感動巨編聞いてるほど暇じゃねーんだよ。」
父「まず、聞けや、おい。その2人は出会って1年で結婚しました。その1年半後、元気な男の子が生まれました。そして、その1年後、もう1人元気な男の子が生まれました。家族は幸せそのもので、健三と希望は2人の子供を大事に、大事に、育てました。時に厳しく、時に優しく育てました。友人には、『1人は将来教師に、1人は医者にする』と意気込んでいました。そんなある日、上の子が2歳、下の子が1歳のある日、友人夫婦の家に遊びに行った帰り4人家族は事故にあってしまいました。運転していた健三は即死、助手席の希望は搬送中に死亡。奇跡的に2人の子どもはカスリ傷で済みました。この世界に2人の子どもは残されてしまいました。祖父母はすでに他界しており、親戚は子どもを引き取らず、施設に送られることになってしまいました。そこで、色々あった後に友人夫婦が2人の子どもを引き取ることにしました。」
瑞希「話、なげえよ。何の話してんだよ。時間返せや。クソジジイ。」
父「その子達が今も生きてたとしたら、上の子は17歳、下の子は16歳。」
瑞希「で、何が言いたいんだよ?」
父「お前と健と同い年だな。」
瑞希「は?だから何が言いたいんだよ?」
父「健三と希望は最初の子が生まれたとき、健三から『健』の字をとって健と名づけ、二番目の子が生まれたとき、希望から『希』の字をとって瑞希と名づけました。」
瑞希「つまり、友人夫婦は親父、あんたと生きてた頃のおかんてわけか。よくできた話だな。」
ナレーター1「瑞希は目に涙をためていた。それはなぜか。父はこれまで嘘などついたことがなかった。それを瑞希はわかっていた。しかし、あまりに突然のことで信じられなかった。」
父「今まで黙っててごめんな。母さんが生きてた頃に、時期が来れば話そうと決めていたんだ。」
瑞希「そうか、そうか。ご丁寧にありがとうございました。今日で家族ごっこは終わりで、これからは赤の他人、あいつらともあんたともな。もう出て行けってか?わかった。今までありがとな。そしたらな。」
父「おい、瑞希!」
瑞希は父の声を無視して部屋を出てく
場面がかわる
ゆりが父の部屋の前を通りかかる
ゆり「ん?瑞希にぃが出てく?しかも、なんかいつもと違う!これ、想像以上に事態は深刻かも!健にぃとお姉ちゃんにも伝えなきゃ!!」
急いで、家をゆりは出る
場面がかわる
そこは佐藤家と学校の間の道
健と美穂が家に向かって傘をさしながら歩いている
健「美穂、悪かったな。助かったよ。」
美穂「いや、なんもだよ。それにケーキ屋さんに寄ったついでなんだ。」
美穂は左手に持っていたケーキの箱を嬉しそうに健に見せつけた
健「ケーキ屋?あぁ、今日は瑞希の誕生日だもんな。」
美穂「まぁ私が食べたいってゆーのが一番なんだけどね。」
健「それもなんとなくわかってたぞ。」
ゆりが傘なしで走ってくる
ゆり「健にぃ、お姉ちゃん!瑞希にぃが・・・瑞希にぃが・・・どうにかして!」
美穂「ゆり、ビショビショじゃない!どういうこと?」
健「ゆり、一旦落ち着け。ゆっくり話すんだ。」
健が両手でゆりの肩を掴んでを一旦落ち着けさせる
息を整えてゆりが話す
ゆり「うん。詳しくはわからないんだけど、瑞希にぃが『出てく』って言ってた。いつもと違って、なんか深刻な感じで。赤の他人がなんだかって!」
健「確かに、『赤の他人』なんていつもと違うみたいだな。」
作品名:誕生日って幸せな日? 作家名:しょう