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連載小説「六連星(むつらぼし)」第46話~50話

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 「はい」と笑いながら、バックの中から顔が隠れてしまいそうな大きな帽子。
かなり濃い色をした、大きめのサングラス。
そしてこれが、とっておきの秘密兵器ですと言いながら、黄色い色をした
辛子スプレーを取り出す。


 「使う事は無いと思いますが、備えあれば憂いなしです。
 もっとも・・・・私にみたいなおばちゃんであれば、
 素顔でいても相手にされません。
 私には不必要な品物でも、あなたには必要になるかもしれません。
 遠慮しないで持っていって下さいな。あっははは」


 押しつけられるままに響が、亜希子から三種の神器を受け取る。
帽子もサングラスも、良く見ると、名の通った一流のブランド品だ。
「あのう・・・・これ」と、響が目を丸くして見上げた時、もう亜希子は
荷物を片手に、テキパキと降りる支度をはじめている。


 「さすがに新幹線は早いですねぇ。
 あっというまに、私の降りる那須塩原です。随分便利になったものです。
 これは、私の名刺です。
 裏にメールアドレスを書いておきましたから、のちほど連絡をくださいな。
 あなたには、どんな風に広野町が見えたのかとても楽しみです。
 確かにそれはブランド物ですが、私が散々使った賞味済みのものです。
 ある意味、二束三文の代物です。
 ではまた今度。あらためてネットでお会いましょう」


 呼びとめる隙も見せず、亜希子が颯爽と立ち去って行く。 

 (今日はいろいろな人と出会う日ですねぇ。午前中の浩子さんといい、
 今の亜希子さんといい、とても元気で、ユニークな女性たちと
 次々に出会います。
 おばちゃん世代が元気なのは、大阪のおばちゃん達だけかと
 思っていましたが、けっこう、東日本にもがんばっている女性が
 居るのですねぇ。
 見直しました。うっふっふ・・・・)


 コンコンと、窓ガラスを叩く音が聞こえてきた。
目線を上げるとプラットホームに立った亜希子が、窓の向こう側でしきりに
ゼスチャーをしている。

 帽子を被れと、手で形をしめしている。
顔にサングラスをかけろと、指示をだしているように見える。
しかしその次の仕草が、良く分からない・・・・
スプレーは、邪魔になるから、ポケットにしまっておけという意味なのか?。
そんな身ぶりを見せたあと、、『もうひとつ、別のアイテムが有るから』と、
ささやいているような雰囲気が有る。


(もう、一つあるの?)


 亜希子が人差し指を立てて、自分の唇に触れた。
しなやかに指が動いて、さっきまで自分が座っていた座席の隅を指ししめす。
指先が、その辺りをよく見ろという風に動いていく。
座席に何かを残したという意味かしら。それとも何か大事な忘れ物でも
したということかしら・・・
何があるのかしらと・・・・響が探していくと、有りました!。


 新品の口紅が、一本コロンと転がっている。
急いで窓の外へ目をやると、それを唇に使えと言いながら亜希子が
目を細めている。
了解しましたとOKサインを返すと、亜希子が投げキッスを見せる。
それを合図に、亜希子がくるりと背中を見せる。
響が手にした口紅は、燃えあがるような赤い色をしている。


 (大きな帽子を被り、サングラスをかけてから、
 唇に、原色の、真っ赤な紅をつけろということか。
 手に辛子スプレーを持って、狼たちの群れの中へ飛び込んで行けという
 亜希子さんからの、メッセージだ・・・・。
 そうか・・・・小細工なんかしないで、女の美しさを前面に出して、
 ポジティブに町を歩いて来いと言う、亜希子さんからの激励だ。
 そうだよね。
 奪えるものなら奪ってみろという、開き直った姿勢のほうが
 安全かもしれないわね。
 だいいち今日のあたしは、全然お化粧をしてない、すっぴんのままだ。
 よぅし。こうなったら腹を決めて、気合を入れて、可愛い女に変身するか。
 亜希子さんの助言の通りに・・・・
 すこぶる良い女になって、これから放射能の最前線の町、
 広野町へ乗り込むぞ~!)