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連載小説「六連星(むつらぼし)」第46話~50話

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(醒めた目で男を見つめているのは、私がいつの間にか
歳をとってしまったせいかしら。
それとも、男の側に魅力が足りなかったせいなのかしら・・・
どちらにしてもいまの私は、恋に縁がないままの、時間ばかりが
過ぎていきます)
英治のあどけない笑顔を思い出しながら、響が、少しばかり自虐的に
ほほ笑む。


 20分で到着した福島駅では、発車の間際になると懐かしい
高校野球の応援歌、『栄冠は君に輝く』の軽快なメロディが流れてくる。
(そうか、まもなく春の選抜高校野球が始まる季節だ・・・・)
窓にもたれ、頬ひじをついて響がぼんやり窓の外を眺めている。
「失礼」という声とともに、空いていた通路側の席へ、ひとりの女性が現れた。
大きな手提げバックをかかえこんだ、中年の女性だ。
息を切らしているところをみると、発車寸前に列車へ飛び込んできたようだ。

 会釈をして隣へ座った女性が、座った瞬間、早くも手提げバッグを開けた。
赤いノートパソコンに続いて、黒ふちの眼鏡を、ひょいと取り出す。
(あら可愛い。ドクタースランプあられちゃんのような、
愛嬌たっぷりの黒メガネです!)
興味を覚えた響が、横目のまま女性の様子を観察する。


 年齢は、40歳そこそこに見える。
化粧っ気はなく、少し肌が乾燥している。
どことなく理知的な雰囲気を漂わせているが、黒メガネがそれを
台無しにしている。
だが本人的には、そのことをまったく気にしていない素振りが有る。
どことなく愛嬌があり、初対面だというのに何故か親しみさえ感じさせる。


 女性がふたたびバックの中へ手を入れる。
今度は、ズシリと手ごたえが有りそうな、ぶ厚い書類の束を取り出した。
書類のあちこちをペラペラとめくりながら、何やら忙しく確認をしていく。
やがて、自分の膝へ置いたノートパソコンへ、人差し指一本で
データ―を打ち込みはじめた。


(あらまぁ、人差し指一本とは、見るからに初心者モードですねぇ・・・
 大丈夫かしら、おばちゃん。そんなことで)


 見つめられているとは知らず、隣に座ったおばちゃんは、
書類の数字を確認しながら、画面を人差し指で次々とクリックしていく。
操作の様子は、いかにも初心者というように、どこまでいっても
たどたどしいままだ。
(画面を並べて。2つ同時に使えるということを、知らないのかしら。
ずいぶん効率の悪い操作を繰り返していますねぇ、まったく・・・・
よぅし!)


 「すみません。少しだけお節介をしてもいいですか?」

 精いっぱいにこやかな笑顔をつくり、響が中年女性へ声をかける。
「はい?」とおばちゃんも黒ブチのメガネを押し上げて、きよとんと
少女のように、可愛い顔を上げる。
響が無言のまま、指でノートパソコンの画面を指し示す。


 「必要な画面を、一度に呼び出すことができます。
 画面上に並べて置いて、必要に応じて操作することが出来ます。
 たくさんの窓を、簡単に操作できることが、ウィンドウズの語源です。
 パソコンは、そのような操作を最も得意とする道具です。
 ごめんなさい。横から出しゃばったりして。でもよろしいでしょうか、
 もう少し、お節介をしても?」


 
 「あら、画面上に並べて置くことが出来るの・・・
 ずいぶん便利な使い方ですねぇ。
 教えていただけると、たいへん助かります~
 私、全般的に機械が苦手なんです。
 銀行のATMだって、いう事をきかせるのに四苦八苦しています。
 仕事とは言え、パソコンの操作も大の苦手なんです。
 助かるわぁ。お嬢ちゃん。今も苦戦をしていたところなのよ!」


 響が身体を乗り出し、肩が触れ合う距離に接近する。
おばちゃんも響が見やすいように、膝へ置いたパソコンをすこし横へずらす。