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連載小説「六連星(むつらぼし)」第46話~50話

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 「伯父さんの容態は、それなりに落ち着いているそうだ。
 いろいろ聞いてみたが、やはり楽観はできないと思う。
 落ち着いたら、秋田へ連れて帰るのが一番だろうと俺は考えている。
 そこで、お前に相談だ。
 俺は此処に残って、様子を見ながら引越しの準備にとりかかる。
 元気なうちに連れて帰るのが一番だと思うので、できるかぎり急ぎたい。
 だが、そうなるとお前さんとは、此処で別れることになる。
 お前さぁ・・・・ひとりで群馬に帰れるか?」

 何事が有るのだろうと、英治の顔をじっと見つめながら
話を聞いていた響が、思わず吹き出してしまう。


 「なにバカなことを言ってんの。
 私に遠慮なんかすることは、ないでしょ
 小学生じゃあるまいし。どこからでも桐生へ帰れます。
 真剣な顔をして私を呼び出すものだから、
 もしかしたら、頼むから、俺の嫁さんになってくれとか・・・・
 ここで一生、伯父さんの世話をして暮らしてくれとか、
 そんな事をお願いされるとばかり、思い込んでいたのに。
 な~んだ、そんなお話なのか・・・・う~ん、ちょっぴり残念だなぁ。
 私なりに期待はしていたのに、見事に外されて、
 なんだか、損をしちゃったような気分だなぁ・・・」


 「あれ・・・・お前。俺がプロポーズしたら、もしかしたら、
 受けるつもりでいたのか?。ひょっとして」

 「受けません。あんたからのプロポーズなんか。
 伯父さんのお世話なら引き受けても良いけど、あんたみたいな不良で、
 出来損ないは、こちらから願い下げです。
 早いとこ故郷の秋田に帰って、色白で純朴な秋田美人でも探したほうが
 あなたのためになると思います」


 「そうだろうな、俺もそう言われると思っていた。
 なんだかんだ言ってお前さんには、ずいぶん世話になっちまった。
 俺からお前さんに、ささやかなお礼がしたい。
 お礼と言っても、大したものじゃない。
 俺のノートパソコンが、看護師のおばさんの車に積みっぱなしだ。
 それをお前にやるから、持っていけ。
 買ってから半年余り経つが、そのときは最高級品だった。
 叔父さんは見つかったし、もう俺には用のない代物だ。
 お前さんの方が上手に使いこなしてくれそうだ。
 そいつをやるから持っていけ」


 「欲しいとは思うけど、あれはあんたの大事な遊び道具でしょ。
 いいの、本当にもらっても。
 実は、いいパソコンだとは思っていたんだ・・・本音はね」

 「やるよ。遠慮しないで持っていけ。
 それからな。当分の間の通信料は俺が払っておく。
 インターネットに繋がっているうちは、俺が金を払っていると思え。
 ただし。メールアドレスだけは変えないで、そのままにしておいてくれ。
 あたらしいパソコンを買ったとき、そっちにメールアドレスが残っていないと
 お前に、俺からの『愛のメール』が届かないことになっちまう。
 メール友達くらいなら、つき合ってくれるよな」


 「どうしょうかな・・・・
 届いたら真っ先に、迷惑メールに振り分けるかもしれません。
 うふふ。冗談です。よろこんであなたからの恋文を読むわ。
 でもさぁ・・・・英治くん。
 よかったですねぇ。伯父さんが元気なうちに会うことが出来て。
 生まれ故郷へ戻ることが、やっぱり一番の保養になると思います。
 ここまで、やって来た甲斐が有りましたねぇ。
 私も、あんたに着いて被災地に来たことを、心から感謝しています。
 でもさ。ごめんね、お嫁さんなれなくて・・・・」


 「ばかやろう。俺みたいな男じゃ物足りないのは、
 お前が、一番良くわかっていたくせに」

 「わかりません。私だって。あなたに真剣に口説かれたら・・・・」

 「じゃ今から必死で、口説こうか?」


 「その気もないくせに」と響が、目を細めて笑う。
「そうだよな。そのおかげで俺たちは此処まで無事に来ることが出来たんだ」
と英治も目を細めて、響を見つめる。
2人の背後へ、茂伯父さんと浩子がやってきた。

 「あら、まあ、ごめんなさい。
 若いお二人は、ラブシーンンの真っ最中でしたか!」

 響の背中で、浩子が目を細めて笑う。
耳まで真っ赤になっている金髪の英治に向かって、浩子が甘い声で囁く。


 「ねぇ。響ちゃんが駄目なら、あたしを口説いて下さらない?
 久しぶりです。思いっきりあたしを口説いてくださいな、金髪君。 
 こう見えても、あたしだって女です。
 あら何よ・・・その不満そうな君のその目つきは。
 失礼でしょ・・・・私だってまだ現役の女です。こう見えても。」



 明るい日差しの下、気持ちよく笑う浩子の声が大きく響きわたる。
元気な笑い声がいつまでも、仮設住宅の間でこだまする。


 「あっ、皆さん。こんなところで、のん気に笑っている場合ではありません。
 群馬へ帰る響ちゃんを、仙台駅まで送らなければいけません。
 金髪君。私を口説くのは、その帰り道でも結構です。
 響ちゃんという強敵を、送り出した後なのでライバルは居ません。
 心おきなく私を口説いてくださいな。あっはっは。
 冗談はさておき、金髪くんは、もういちど車を運転をしてください。
 茂伯父さんも一緒に、響ちゃんを見送ってくださるそうです。
 そうなると私は、帰り道は両手に花ということになりますねぇ。
 さあさ、そういう事ですので、とっとと参りましょう。
 目障りな群馬の田舎美人なんか、とっとと追い帰して、後は、
 私たちの3人で、大いにもりあがりましょう!」

 「あら、私は湯西川の出身です。ですから生まれたのは栃木県です」


 「群馬も栃木も一緒でしょ。
 どちらも・・・・同じ北関東のド田舎者でしょう!」


 浩子の元気な笑い声が、ふたたび仮設住宅内に響き渡っていく。