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連載小説「六連星(むつらぼし)」第46話~50話

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 響の指が、早くも、芸妓組合のリンクをクリックしていく。
瞬時に、艶めいた色彩で書き込まれている、笠間芸妓組合のホームページが
画面いっぱいに現れた。
『21軒ある旅館・料亭でいつでも粋に芸者さんと、楽しい一時を
過ごすことができます。』と華やかにうたってある。
花代は、1名、2時間、14、175円と格安です、と説明文がついている。


 「あら、ずいぶんと格安のお値段ですねぇ。
 今時のコンパニオンさんと、同じような料金システムです。
 なになに。お客様4名様で、芸者さんを2人2時間のお座敷を楽しむと、
 1.お料理 お一人    5,000円として  20,000円(税別)
 2.お飲物 お一人  約2,500円として  10,000円(税別)
 3.芸奴1人2時間   13,500円     28,350円(税込)
 よって、4名様の合計は、            58,350円
 お一人当たり、14,587円になるのか。
 お客様の人数が増えれば、その分お一人当たりの金額が安くなる。、
 お店によって料理や料金設定が異なりますので、
 その分はまた変化するのか・・・
 なるほどねぇ。意外に安いのねぇ。お座敷でのお遊びも・・・・」


 
 日本三大稲荷のひとつ。笠間稲荷神社の門前町として笠間は
古くから栄えてきた。
笠間のまちに芸者の置屋ができたのは、明治の後期ごろと言われている。
料亭や旅館が並ぶ通りに、夜ともなると連日のように三味線の音が粋に流れた。
下駄の軽やかな音を響かせ、着物姿で往来していく芸者衆の艶めかしい姿が
夜遅くまで見られたという。
笠間芸妓組合の見番の電話が、鳴り止まなかったという逸話が残っている。


 隆盛期は、1985年(昭和60年)前後だったと、記録に残っている。
この年。茨城県のつくば市で「科学万博」が開催されている。
世の中は、バブルに向かって経済成長を続けていた、好景気の時代だ。
記録によればこの当時。笠間には40軒あまりの芸者置屋が軒を
連ねていたという。
120名を超える芸者たちがいて、活況を呈していた。


 笠間の秋を盛り上げるイベントのひとつに、菊まつりがある。
見せ場となる菊人形の仕掛け舞台では、クライマックスに華を添えるため、
大勢の芸者衆が舞台に登場した。
『段返し』と呼ばれる、まつりの最後を飾る華やかな舞台だ。
あでやかに登場し、艶やかな手踊りを披露した。
多くの見物客たちを魅了したという逸話が、今も懐かしく残っている。


 時代の流れが変わる中、笠間でも芸者の出番は少なくなってきた。
それでも置屋は、11軒ほど残っている。
芸者衆もベテランと若手を含めて、20名ほどが昔からの伝統を守っている。


 若手の芸者たちにとって心強いのは、創業90年で、県内最古といわれている
置屋の三代目女将が、笠間の芸妓文化を見守っていることだ。
月2回。ベテランの姐さんたちが稽古場で、丁寧に若手の指導にあたっている。
20代や30代の若手たちも、熱心に稽古場に足を運んでくる。
舞踏や音曲、鳴物などで宴席に興を添える笠間風のおもてなし文化は、
いまだに健在だ。
それらをひきつぐ若い担い手たちが、こうして確実に育っています、と
ホームページの中で紹介が続いていく。


 「芸者さんか・・・・そういえば、そんな選択肢が私にもあった。
 でも今からそんなことを言いだしたら、お母さんが卒倒するだろうなぁ。
 舞いは好きだけど、すぐに足が痛くなるんだもの。
 正座は大嫌いだし、昔から畳に座るのは苦手です。
 それさえなければ、着物を着るのは大好きなんだけどなぁ・・・・
 でもどうせ、あなたは、狭い格式に縛られた世界になんか生きないで
 伸び伸びと、自由に別の世界で生きなさいと言われるのが、関の山です」


 ようやく到着した(笠間芸妓のいる)「ともべ駅」で、
どこかで聞いた覚えのある、古い歌謡曲のメロディが流れてきた。
列車の行き先を案内するアナウンスに混じり、軽快な音楽が途切れることなく
いつまでもホームに鳴り響いている。
すぐに覚えられそうな、単調な旋律の繰り返しだ・・・・


 「あっ、『上を向いて歩こう』だ・・・・
 飛行機事故で亡くなったという、歌手の坂本九の持ち歌だ。
 田んぼのど真ん中で、人口3万足らずの小さな駅なのに、
 突然現れてくる粋な笠間芸者と、坂本九のメロディ。
 古い文化も大切にしていますという、意気込みを感じますねぇ・・・・
 さびれた小さな駅舎の割には、小洒落た町ですねぇ。笠間と言う門前町は」