連載小説「六連星(むつらぼし)」第46話~50話
メールの中に、『秋田生まれの金髪の貴公子』という差し出し人が
混じっている。
(金髪の英治そのままのハンドルネームですねぇ。単細胞だな、
やっぱりこいつは)
クリックすると、英治からのメールが現れた。
(へぇぇ。私を送った駅からの帰り道で、もうパソコンを買いこんだのか。
なになに。残りの金は俺からのご祝儀だから、お前の結婚資金の足しに
しろですって・・・・なにさ。なんだっけ?残りの金って。 あっ。)
例の100万円の所持金のことだ。
何が有るかわからないので、用心のために二人で分配して持っていた金だ。
英治には70万円を持たせ、もしものときにと響が、残りの30万円を
別に預かっていた。
(そうでした。・・・・
朝からバタバタ展開しているうちに、すっかり、お金のことを
忘れていました。
まあいいか。くれるというのだからもらっちゃいましょう。
別に荷物になるわけでもなし。まてまて、まだ何かが書いてあるぞ・・・・
『手切れ金がわりくれてやるから持っていけ』だって。
まるであたしを情婦あつかいだな、こいつときたら、まったく。
ついでです。こいつにもお礼のメールを打っておくか・・・
えへへ)
響が、亜希子からもらった名刺を裏返した。
ローマ字で、『なすのよのまちでいちばんのすっぴんびじん』と書いてある。
(那須の町で一番というのは、弓名人の那須の与一とかけているのかな・・・・
洒落てんなぁ。このおばちゃんも。
浩子さんも素敵だったけど、このおばちゃんもお洒落でチャーミングです。
私もあんな風に、可愛く歳をとりたいですねぇ・・・・)
響が亜希子に向けて、お礼のメールを打ち、金髪の英治へ
丁寧なお礼のメールを書き上げたころ、『やまびこ』が小山駅に滑り込む。
これから乗り込む水戸線(みとせん)の始発駅だ。
水戸線は、小山駅から笠間稲荷で知られる友部駅までを走るJRの単線路だ。
水戸駅よりも遥か手前の友部駅までなのに、あえて水戸線と呼んでいるのは、
友部駅から北上するための区間を、東京から来た常磐線と線路を共有しているからだ。
水戸線の列車は水戸駅を経て勝田まで、常磐線を便乗していく。
ごく一部、いわき駅まで走っていく列車もある。
「あら~まぁ。4両編成の、可愛いローカル列車ですねぇ・・・・」
乗り込んだ響が、どこまで行っても代わり映えのしない田園風景に
すぐ飽きてしまう。
再び座席で、英治のパソコンを取り出し、膝に乗せる。
水戸線は乗り換え駅の友部までの50キロを、小1時間ほどで走りぬける。
北関東を代表する穀倉地帯を走るローカル列車の一番の特徴といえば、
どこまで走っても同じ田んぼの風景ばかりが延々と続くことだ。
友部駅のある笠間市は、東京から直線距離で80km余り。
自動車道でも120km。
東は茨城県の県庁所在地でもある水戸市、南は大学が密集する
つくば学園都市など、茨木県を代表する主要な都市と隣接している。
笠間市自体は、四方を山に囲まれた人口3万人あまりののどかな町だ。
笠間といえば、笠間稲荷と笠間焼でよく知られている。
田園風景の中にある、きわめて小さな田舎町に<笠間芸者>と呼ばれる
芸者衆が、今でも20名ちかくが現役で残っている。
「あら。笠間の町にはお母さんと同じ職業の人たちがいるんだわ」
常磐線への乗り換え時間を検索していた響が、
笠間芸者のホームページを見つけて、思わず手をとめる。
笠間市の表通り埋め尽くし、賑やかに開催されている七夕の風景写真の中に、
浴衣姿で優雅に歩いていく芸妓の姿が写っている。
響が目を引かれたのは、続いて現れた笠間市の公式ホームページだ。
ホームページには、堂々と笠間の芸妓組合のリンクが貼られている。
「へぇ・・・驚いたぁ。笠間では、市役所のホームページと、
芸妓組合のホームページがリンクしているんだ」
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第46話~50話 作家名:落合順平