ツキノシタ
会場のホテルに、同級生が続々と集まり始め「久しぶり〜」と皆が声を掛け合う。その中で、遠野が急に華に聞いた。
「華は彼氏いんの?」
「いないよ。フリー。遠野くんは?」
「彼氏はいないなぁ」
「彼氏いるって言われても困るし」
笑いながら誤魔化された、と華は思う。彼女がいる、と言う事だろう。今さら何を期待していたわけでもないが、残念に感じていたのは事実だ。
終わり際、華の元に来た山下が言う。
「二次会行こうぜ?」
「行く行く」と周りは言っているが、どうしようか悩んでいると、山下の手が華の肩に回され、こっそり言われる。
「遠野も行くって」
「え?な、」
「知ってました。行くだろ?」
ニヤリと笑いながら、山下のダメ押し。華は「行く」と呟くしかなかった。
「で?何で知ってんの?」
二次会の会場で、華はこっそりと山下に聞いた。
「何を?」
ニヤリとするその顔は、華が何を聞きたいか分かってて聞いている顔だ。分かってるくせに、と思いながら華は言う。
「さっき、知ってますって言った事」
「あぁ。女子の友達が多かったから」
「なる程。凄い納得。てか、誰かがバラしたって事ね。まぁ、もう時効だからいいけど・・・・・」
とは言ったものの、恥ずかしい気持ちから華は目の前にあった酒を飲み干した。会場を出る頃には、ほろ酔いでいい気分。自分ではほろ酔いだが、周りから見たら千鳥足だ。そんな華に、山下が話し掛ける。
「華、送ってく?」
「山下が?」
「いや?遠野が」
「何だよそれ」
遠野は、笑いながら山下に言った。
「だよね」
と、華も続ける。
「だよねって何だよ」
不満気に、山下が言った。
「そんな面倒な事しなさそうだから」
気があるコだったら別だろうけど、と思う。
「遠野が送るって言ってんだから、オレは必要ない」
山下と華のやり取りに、遠野が口を挟んだ。
「言ってねぇし」
「いいから送ってってやれよ。コイツふらふらして危ねぇ」
「失礼な。危なくありません」
華が山下に喰ってかかろうとしていると、遠野が華の腕を引っ張った。
「いいから、帰るぞ」
それだけ言うと、遠野は掴んだ華の腕を離し、先を一人で歩き始める。華は後ろを付いて行った。