ツキノシタ
少し歩いた所で、前を向いたまま遠野が話し始める。
「お前、山下の事好きだったの?」
「え?何で?」
「スゲー仲良さそうだったし」
「ないない」
笑って否定しながら、時効なわけだし、言ってしまってもいいかと華は思っていた。
遠野が、首だけ振り返って華を見る。
「ないの?」
「ちょっと酔ってるので言ってしまうと、遠野くんが好きでした。今も、かな?あー、言っちゃった」
笑いながら華が言い、そのまま歩いていると、ボスンと何かにぶつかった。顔を上げると、遠野の背中があった。
「先に言うなよ」
ボソリと呟いた遠野の言葉の意味が分からず華は「ん?」と聞き返すのに、顔を上げたその途端、不意討ちのように遠野が華にキスをした。
「え?え?」
「つかさ、お前、どう見ても山下が好きな態度だったろ」
「い、今のは何?」
「もっかいしようか?」
ニヤリとしながら遠野は言うが、華の頭はそれを受け入れる余裕はない。
「え?な、何が起こった?」
「スルーすんな」
「だって、彼女いるんじゃ・・・」
「誰に」
「遠野くん」
「誰が言ったんだよ」
「さっき、あたしがフリーって言った時」
「彼氏はいないとしか言ってない」
「確かに。あれ?で、何か怒られた?」
「山下の方が・・・・・」
「あ、いや、遠野くん、彼女いるんだって思ったら・・・」
「納得行かない」
そう言って、遠野は華にもう一回キスしようとする。それを、華は慌てて両手で止めた。
「ちょ、ま、待って。ストップ」
「待てない」
「ちょ、待ってってば」
「じゃあ、待たない」
言って、遠野は華の後頭部に片手を回すと、軽く引き寄せてキスをし、口唇を離すとクスリと笑った。
「帰るか」
そう言って手を繋がれた華は、急な事と恥ずかしさから、まともに遠野を見る事が出来なかった。
少し歩いた所で、確認するように遠野が華を見る。華は、チラリと遠野を見る。
目が合い、お互いニッコリと笑った。
二人の先には、満月が綺麗に光っていた。