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魔物は人間の夢を見ない

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 何事もなかったかのように窓から顔を出してこちらに手を振るアグリィ。しかしもちろんその笑顔にわたしが答えるはずもなく、敵意さえこもった眼差しで睨みつける。

「ミケラスカだ。貴様、はじめから起きていただろう」

 そうだ。そうに違いない。証拠はないがそんな確信があった。しかしアグリィはすっとぼけた顔で、

「さっきの火と氷の魔術がぶつかり合った音で起きてばかりさ。それよりあの化け物は何だろうね?」
「知るか。お前を狙っていたみたいだから、どうせまたお前がよからぬことでもしたんじゃないのか」
「それはどうだろう。今日はまだ悪いことはしてないつもりだったんだけど。まあ、とりあえず追いかけてみる?」
「どうやって? 奴の気配はもう既にこの辺りにはないぞ」

 しかしアグリィは少しも困った様子はなく、穏やかに笑って言った。

「大丈夫、追跡用の魔術符を仕掛けておいた。気づかれないよう別の魔術で感覚を少し狂わせておいたから問題ない」

 アグリィはいつものにこにこ顔でそれだけ言うと寝巻きから着替えるのか部屋に引っ込んでしまった。残されたわたしは魔術の余波で少し形の変わった向かいの屋根に腰を下ろしたまま騒ぎで人の集まってきた地上を見下ろす。その中には昼間酒場で世話になった男もいた。手でも振ってやるべきなのかもしれないが、面倒だったので見下ろすだけにとどめておく。

 わたしはひどく機嫌が悪かった。知らん顔でぎりぎりまで出てこなかったアグリィにも腹は立つが、アグリィが追跡術を施したことに気づかなかった自分にも腹が立つ。そして何よりそれ以上に、主人を危険に晒した上に何もできなかった自分に腹が立った。こんな奴でも主人は主人なので、わたしは守らなくてはいけないのだ。人間が思う以上に魔物は契約を大切にする。いわばそれは誇りのようなものなのだ。さっきの化け物もずたずただったが、わたしのプライドは間違いなくそれ以上にずたずただ。

「さ、準備できたよ。場所はもうわかっているし歩いていこう。シアンもそろそろ降りておいで」

 昼間と同じ格好に着替えたアグリィが窓からまた顔を出して手招きする。しかし素直に従う気分じゃなかったので空中を浮遊するだけで部屋に入ろうとはしなかった。どうせすぐに外に出るのだし面倒だ。
 わたしのそんな様子にアグリィは苦笑を漏らしたが、それ以上は促そうとしない。そのかわりに別のことを言った。

「場所は昼間に行ったコンラート姉弟の家みたいだよ。噂は本当だったね」

 そして自分も当たり前のように二階の窓から外へ飛び出し、当たり前だが重力に従って落下する。そのまま本当に何もする気がないようだったので仕方なく落ちる前に回収してやった。一緒に地面へ降り立つと、じゃあ行こうかと何事もなかったかのように歩き出す。

 わたしはアグリィの、そういうところが嫌いだ。