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魔物は人間の夢を見ない

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 わたしの驚きをよそに最後の光が見えなくなり、屋敷に薄暗闇と静寂が戻った。

「この人形は返すよ」

 広間の中心で泣き崩れているビークスの元に歩み寄り、アグリィは手にしていた人形をそっと手渡してやる。しかしビークスがアグリィを許すわけもなく、顔を涙で濡らしながらも憎しみのこもった目で姉の形見の人形をひったくった。

 ホールにはビークスの嗚咽と少しも気を悪くした様子のないアグリィの忍び笑いと、わたしの溜息が響き渡る。そしてそれらに掻き消されそうなか細い声がもう一つ。

「びー、くす。ないてる。どうし、た、の」

 その高くたどたどしい声は三人のうちの誰のものでもなかった。ただその声にビークスの嗚咽がやみ、アグリィの忍び笑いとわたしの溜息が一層大きな音を立ててホールに響く。この場でその声の主の存在にまだ気づいていないのはビークスただ一人だった。

「え……今、誰が」

 驚いた顔のビークスがわたしとアグリィの顔を交互に見比べる。しかしどちらも何も言うことはなく、ただただ忍び笑いと溜息を繰り返すだけだ。共に人形を指と尻尾で差しながら。

「びーく、す?」

 人形は大きな猫の顔を上げ、まじまじとビークスの顔を見上げる。そして少し首を傾げるような仕草をして、短い両手をビークスの顔に触れたそうにぎこちなく動かした。

「まさか……姉さん? ビオラ姉さん!?」

 信じられないといった様子で尋ねるビークスに人形とアグリィが同時に頷く。わたしはほとほと呆れ果て、もう何かを言う気力も尽きてその場に丸くなった。ツララで程よく冷えていて気持ちいい。本来魔物であるわたしは眠りを必要としないのだが、もう何もかも忘れて眠ってしまいたい心地だった。

 これだから人間は、わからない。