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まだ、信じてる

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「オレのこと、嫌いなのか・・?イヤなのか?」
「ち・がう・・・」
薄蒼いたそがれの教室の真ん中に立ち、二人は話し続けた。
夕暮れの気配を、夜が覆っていく。
「どうして?」
あまやかな竹流の声。
「嫌いなんかじゃ・・ない」
うつむく明海の頬に、いきなり竹流はキスをした。
頬に手をあて、明海は竹流を目を丸くして見つめた。
竹流はほほえんでいた。
「・・・キライか?」
「・・じゃ・・ない」
その次には唇にキスが、きていた。
「きらい?」
「好き・・だ、竹流」
最後のくちづけは、その言葉に無言で応えるように深く熱いものだった。

「明海くん・・・?」
「あ、す・すみません、ボケっとしちゃって」
「うふふ・・おいしいかな?」
「ええ、すっごく」
「そう、やった!うれしいな。
・・・竹流は今さらあんまり言ってくれないからね」
「ママ!オレいつも、おいし―って思ってるよ」
「だったら、正直に、いいなさい」
そういってにっこり、竹流の¨ママ¨は笑う。
そういう言葉もすべて、竹流に対する愛情にあふれている。
竹流もにこにこしている。
この家庭は、ほんとにあったかくて、居心地がいい。
まさか、これから起こる出来事が本当の事とは、
その時の明海のしるよしもなかった。

夕食のあと、竹流の少年らしい中にシックさが漂う雰囲気の部屋へいった。
住み主に似た部屋は、重厚なセピア・トーンでまとめられ、
輸入品らしいアンティーク風のライティング・デスクには
PCの画面が光っていた。
広い白いベッドは白のオーガンディのカーテンのつるされた高い窓際で
いつも清潔感ある白いシーツとピローカバーがされている。
(何回あのベッドで・・・)
明海は考えた。
(何故・・竹流はオレを選んだんだ?)
「どうしたの?明海?」
デスクの方から、ベージュのじゅうたんに座った明海に竹流は声をかけた。
「竹流、オレ聞きたいんだ。真剣に答えてくれ」
「う・うん」
「どうして、俺、なんだ?―竹流、男って初めて・・だろ?」
竹流はデスクを離れ、明海の前に座った。
「そうだ。」
「どうして?」
「最初に明海を見た瞬間から、ひかれてた。
・・・切ないくらい胸がドキドキして、明海のすべてが欲しいと思った」
「え?」
明海ははっきりいって驚いた。自分が少しづつはぐくんでいた想いを
竹流は出会ったその時に、もっていたと告げる。
「自分でも、わからないくらい、明海に惹かれてた・・・。」
ほんの間近まで顔をよせ、フレンチ・キスを竹流は明海に送った。
瞳は、微笑んでいる。
「愛してる、明海―今も、そしてこれからも。」
心、揺らす竹流のささやき。
「あきみ・・・」
二つのシルエットは重なってゆく。

「じゃあね、明海くん」
「あきみ!あしたな!」
振りかえり、明海は笑う。
「あした!たける!!」
その夜、夕食をご馳走になって、明海は、竹流と竹流の母に見送られて
幸せな気分で家路についた。
家に着いて、部屋で明日の予習をはじめ、ふと時計を見ると
12時半になっていた。
(もう、寝ようか―。)
その時、慌てて階段をかけ上がり思い切り部屋をノックする母の声がした。
「明海?!いる?!」
「あいてるよ、どうしたの?」
「た、大変よ!!竹流くんが・・」
「竹流が?何だよ?一体。」
「お母さんと、お父さん、事故で亡くなられたって・・今・・」
「ウソだろ?!」
走りながら、今、さきほどまでの竹流の家でのことを思いかえしていた。
(ウソだろ?!そんなバカな!)
家は、暗く、ひと気がない。
(病院!きっと、そうだ)
自宅にTELして、病院名を確かめタクシーをひろう。
明りの半分落ちた深夜の病院は、深い海に眠る沈没船を連想させた。



深夜受付で話を聞き遺体安置所へ走った。
扉を開けると簡素なベッドが目に入った。
照らされたスポットライトのような光の下に、シーツをかけられた
二つの体が見えた。
明海は壁際にたたずむ、暗くてよく表情の読み取れない竹流をみた。
竹流はうつむいている。
「竹流・・・?」
その眼を見た時明海は強いショックを受けた。
焦点があっていない・・・虚ろな瞳。
「・・・・・」
「おい、しっかりしろよ、オレだよ、明海だよ!」
「・・・・・・・」
様子が変だ。何を言っても、返事がない。
明海は、受付に飛び去り、事情を説明して、医師を連れて来た。
別室に、背中を押され入っていく、別人のような竹流を見ながら
いいようのない不安で胸が押し潰されでしまいそうだった。
医師が一人で診察室から出てきた時、
明海はわらをもすがる思いで聞いた。
しかし、返って来た答えは、明海の想像を絶していた。
「若宮竹流君は失語症―それから記憶障害が予想されます。
ご両親の凄惨な死がひきがねになったんでしょう。
遺体確認の時、あまりに状態が酷いんで、
誰もが目を覆ったと聞いています。
竹流君の心は、自分の殻に深く閉ざされてしまった・・・。
自己を封じ記憶の退行化によって、かろうじて精神の均衡を保ち、
生きながらえている、といった状態だと推測されます。」
「失語症?記憶障害?な、治るんですよね?!」
「・・・それはこれからの治療次第です。それ以上は何とも言えません」
目の前が暗くなって気を失ってしまいそうだった。
(竹流!そんなバカな、あの竹流が・・・!!!)
そっと診察室のドアを開けると回転椅子に肩を落とし座る白い背中が見えた。
「・・・竹流?」
ゆっくり振り向いた瞳は、
まるで知らないものを初めて見る、怯えた子供のようだった。
(ウソだ!!誰か嘘だと言ってくれ!これは、悪い夢だ!!)
ぼんやりしてる竹流を、抱きしめて、明海は大声で泣いた。

ひととおりの儀式が済むと、竹流は住みなれた家を離れて、
祖父母の実家の元へ引きとられる事になった。
裕福な竹流の身の上は万全だったが、学校は無期休学となってしまった。
広い和風邸宅の、庭に面した長い廊下に肩を落とし座る竹流に
逢いに毎日、明海は学校の後、一時間以上かけてかよい続けた。
晴れた日も、雨の日も・・・。
竹流は人形のようだった。言葉はまったく発せず、明海にも関心を示さず
いくら話しかけても、無言で広い庭の緑を、見続けている。
明海にとって、つらく、哀しい日々が訪れた。

夜遅く、家に帰ってベッドに泣き伏しながら、明海は運命を呪った。
(どうして?!何故?!―よりによってあの竹流が?!)
竹流への、あまりの愛ゆえに、明海には現実を否定するしかなかった。
だが、竹流への努力を、明海は一日たりともかかさなかった。
右手に軽くふれた時、びくっとして体を引く竹流。
そこまでなってしまった竹流が不憫で―切なさに明海はその場で、
泣き出してしまった。
そんな明海を見るともなくみている竹流。
「竹流のせいじゃない・・竹流は何も悪くないのに・・・」
泣きながら、明海は叫び続けた。
作品名:まだ、信じてる 作家名:中林高嶺