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「蓮牙」1 蓮牙

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 通り一杯の通行人たちは、こういった騒ぎには慣れているらしく、半数はさあっと建物の中に吸い込まれ、残りの半数はその場で身を低くした。
 店から飛び出してきた巨漢の男は、「盾」をなくして走り出した。
 後を追って男が出てくる。あの二人組の片割れだった。
 サングラスをかけた黒ずくめの男は、逃げていく男に銃弾を浴びせかけた。
 もう一人は――?
 蓮牙は屋上から身を乗り出して辺りを見回した。
 通りで大きく動いているのは、逃げていく男だけ。
 男の行く先へ視線を向けると、通りの先の建物の屋上に人影が見えた。
 ――あれか?
 人影は、男が近づいていくとひらりと建物から舞い降りた。
 男が気付いて進路を変える。
 それを見届けるとサングラスの男は道端に止めてあったビームライダーに跨った。ビームライダーはドーム都市や宇宙ステーションでよく使われる乗り物で、ドーム内に縦横に張り巡らされた誘導ビームが作り出す空中回廊を移動する。
 二人組はその乗り物もあらかじめ準備してあったのだろう。
 サングラス男は弾かれたようにビームライダーを急上昇させ、様々な浮遊物を器用にかわしながら飛び去った。
 蓮牙は、三人とも見えなくなってしまったので、慌てて屋上から隣の建物の看板に飛び移った。
 屋根伝いに行った方が早いな。
 蓮牙はそのまま建物の屋根やバルコニー、窓枠、街灯、看板などを足場にして三人の消えた方向へ向かった。
 シオニードの街はドーム中心ほど栄えている。建物も密集しているし高層だ。空中には誘導ビームに乗せて浮遊広告やら場所によっては屋台が浮かんでいた。蓮牙はけばけばしいネオンと喧しい雑音を踏んで、決して空いてはいない空中回廊を高い方高い方へ軽やかに進んでいった。
 喧噪に混じって銃声が響く。
 この街では銃声や爆発音はありきたりなBGMだ。しかし、蓮牙が追うその銃声は、明らかな意志を持って獲物をある方向へと追い込んでいた。
 ドーム外縁へ――。
 ドーム外縁――外界に近いドーム壁付近は、ドーム中央の繁華街とは同じ街とは思えないほど静かだ。特に、公的機関の集中する「ゲート」と繁華街を挟んで正反対に位置する「外壁」沿いには、歓楽都市の陰の部分とも言えるスラム街が広がっている。
作品名:「蓮牙」1 蓮牙 作家名:井沢さと