「蓮牙」1 蓮牙
とにかく仕事を見つけて金を手に入れなけりゃ、飯も食えねぇ。
彼はボトルをくわえてまた歩き始めた。
カセル以外の世界のことは宙港の人間や船乗りたちから聞いていた。宇宙連合のこと、軍のこと、このキリル星系のこと、シオニードのこと、そして旧地球連邦と貴族のこと。何でもかんでも聞きまくって、飽和になるまで頭に詰め込んできた。
それでもやはり、初めての星初めての街で、彼は完全に途方に暮れていた。
「三○○万か?それだけあればしばらく楽できるな」
水でとりあえず腹の虫を黙らせた蓮牙の耳に通りの先の方から声が聞こえてきた。
二、三人の通行人の先に、背の高い二人組の男が見える。声はその二人の片方のものだった。
「久々にまともな飯も食えるし、ミシェルにもいい服が買ってやれるぜ」
蓮牙は「飯が食える」という言葉に聞き耳を立てた。
どうやら儲け話をしているらしい。
三○○万なんていう、蓮牙などは数えたこともないような大金が手に入る仕事があるのだろうか。「シオニードに行けば金なんかいくらでも手に入る」と言っていた船乗りたちの話は本当だったんだ。彼は感心した。
そしてふらふらと二人の後をついて行った。
★ ★
二人組は二時間ほど街のあちこちを歩き回り、あたりが薄暗くなると、漸く店開きを始めた飲み屋のようなところへ入っていった。
金を持っていない蓮牙は、一緒に店の中へ入っていくわけにもいかず、仕方なく外で二人を待っていることにした。
二人が入っていった店のある建物には、外側に非常階段が取り付けられていた。
蓮牙は二人を待つ間、そこに上って街の様子を見てみることにした。
シオニードのドームは、ティエンに現存するほかの二つのドームと比べれば半分ほどの大きさしかないという。他星系の「歓楽都市」と比べてもそうらしい。
しかし、人工の建築物など資源採掘プラントと宙港しか見たことのない蓮牙には、それは驚くほど巨大なものだった。その上、この巨大な街のほとんどが「遊び場」なのだとは――。蓮牙にはその「遊び」の意味も解らなかった。
蓮牙はビルの屋上の手すりの上に立って街を見下ろした。