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華鏡(はなかがみ)~鎌倉のおんなたち・時代ロマン小説連作集~

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「頼経さまだけでなく御所中の者が噂しているのは知っています。鎌倉でお育ちの竹御所さまの方が都生まれ育ちの私よりよほど雅で気高くあられたと。公卿の姫の癖に、私は竹御所さまと比べれば、まるで子どもの山猿だと!」
 頼経もその心ない噂は知っていた。が、若くして亡くなった千種はこの死後四年ではや伝説の人と化してしまっている。千種が気高く美しかったのは確かなことだが、最近では竹御所誕生の砌は鎌倉の黎明の空に鳳凰が舞っただのその噂にも信じられないような尾ひれがついていた。
 竹御所が二代頼家の息女であり、源氏嫡流の血筋を誇る姫、更に跡継ぎたる男子を産みながら死産、薄幸の死を遂げた―その劇的な生涯が余計に神話化されるきらいがあるようだ。
 そんな千種と比べられる瑶子が可哀想だとは常々思っていた頼経だった。
 頼経は瑶子を抱き上げると、浜辺まで歩いていった。そっと浜辺に降ろすと、腕組みをして鎌倉の海を眺めた。
「そなたは何か誤解をしているようだ」
「誤解―」
 その言葉に瑶子は敏感に反応した。頼経ははるかなまなざしを海に向けたままだ。
「初めてそなたを抱いた時、これで良かったのかと後悔した」
 やはり、という想いが駆け抜け、千種はまた涙ぐんだ。が、頼経は次に思いもかけないことを言った。
「そなたを抱けば、身籠もる可能性が出てくる。私はできるならば、それを避けたかった」
 瑶子は愕いて頼経を見上げた。
「何故でございますか?」
 頼経の声がかすかに震えた。
「先御台は出産したがために死んだ。何日も苦しみ抜いて、たくさんの血を流して亡くなったのだ。生まれた子も助からなかった。先御台も子も私が殺したようなものだ」
 頼経は首を振り、空を見上げた。その仕種は溢れようとする想いを懸命に堪えているようにも見える。
「竹御所が死んだ日、私は決めた。もう二度と子は持たぬと。子を産まねば、先御台が死ぬこともなかった。ゆえに、生涯、子は持たずとも良いと」
 今、初めて知る頼経の想いだった。それにしても、何という哀しい覚悟だろう。頼経がいつも最後まで瑶子を抱かなかったのは、彼が瑶子を気遣うゆえであった。もう二度と妻を死なせたくないという怖れと願いが頼経にあったのだ。
「竹御所さまが亡くなられたのは御所さまのせいではありません」
 それは瑶子の本心だった。折角授かった和子ごと竹御所が儚くなったのは悲劇には違いない。けれど、それは何人にも変えようもない宿命とでもいえた。何故、頼経はそこまで自分を追い込み責め続けるのか。
 瑶子がなおも何か言おうとした時、頼経が儚く笑んだ。
「この話はもう良い。とにかく二度と愚かなことを考えるな。先にも申したとおり、今の私の妻はそなたしかおらぬ」
「―はい」
 その淋しげな微笑みに、瑶子はもう何も言えず口をつぐむしかなかった。

 その夜、二人はいつもにもして烈しく求め合った。頼経が烈しく求めるのは常のことだが、瑶子もまたその愛撫に怯えることなく積極的に応えた。それは長らく彼女を縛り付けていた心の枷が由比ヶ浜で漸く解けたからでもあった。
 頼経に大切に思われているという想いが瑶子を駆り立て、大胆にさせていたのである。さんざん揉み立てられ吸われた乳房の突起はスグリの実のように紅く艶やかに濡れ輝いている。頼経が胸ばかりを見つめるので、瑶子は頬を染めた。
「そのようにご覧にならないで。恥ずかしいです」
 頼経が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「何を今更。それでは望み通り、隠してやろうか」
 と、両手でたわわな両の乳房を包みんだ。大きな手にもおさまりきらず零れ落ちる。指先の間から可愛らしい乳首が覗いているのを見て、頼経の瞳に更に淫らな光が閃いた。
「可愛いな」
 顔を近づけたかと思うと、チュウッと音を立てて乳首を吸い上げる。
「ひうっ」
 突然仕掛けられた悪戯に、瑶子はあられもない嬌声を上げて身を仰け反らせた。
「お止め下さりませ」
 咎めるように言っても、熱に潤んだ瞳で縋るように見つめられては頼経にはかえって逆効果なのだが、瑶子当人は気付いてない。
 頼経がクスリと笑った。
「それでは、こんなのはお気に召すかな」
 まだ繋がったままの下半身をぐるりと腰ごと押し回すと、瑶子がまたも悲鳴を上げた。
「本当に意地悪なお方」
 瑶子もまたクスクスと笑いながら言う。また頼経が腰を突き上げ始め、瑶子は話をしている余裕もないほど次第に追い上げられていった。男が腰を烈しく動かすのにつられるように、瑶子もまた妖しく腰を揺らめかせる。
「頼経さま」
 突如として名を呼ばれ、頼経の動きが止まった。
「何だ?」
 営みの最中に水を差され、頼経は眉を寄せている。が、瑶子が途中で止めて自由にして欲しいのだと言うと、すんなりと離れてくれた。先ほどまで頼経で満たされていた蜜壺がそれを失い、物欲しげに蜜を垂らして痙攣する。
 つくづく短期間に淫らな身体に作り替えられてしまったものだと我ながら思った。だが、それも愛する男に抱かれてのことなら、女には歓びでもある。
 瑶子は頼経に褥に座るように頼み、自分はその両脚の狭間に座った。一方、頼経はこれから何が始まるのかと不審半分、興味半分といったところだ。
 しかし、瑶子が頼経の下半身に顔を近づけ、そっと舌先で彼自身に触れると、彼が息を呑むのが判った。
「そこまでする必要はない」
 頼経の声は固かった。瑶子は下から頼経の顔を見上げた。
「最後までして下さい」
 頼経の表情も声も依然として強ばったままだ。
「そなたはそのために、ここまでするのか?」
 それには応えず、瑶子はまた頼経自身に舌で軽く触れた。瑶子は既に何度か達しているものの、彼は一度として達しておらず、勢いを保ったまま隆と屹立している。
 慎重にその先端を舐めてみると、酸っぱいような妙な慣れない味がする。慣れない味ではあるが、これも大好きな男のものだと思えば何ということもない。
「止めなさい」
 頼経の声が再び降ってくる。
「いいえ」
 今度は頓着せず、瑶子は頼経自身を丁寧に慎重に舐めてゆく。まずは亀頭の部分の周囲をゆっくりと円を描くように、次は先端の窪みを舌でつつく。更に今度は竿の部分を舐め上げていった。竿には血管が幾つも走っている。その少し表面が凹凸になった箇所に舌を這わせると、頼経がかすかに身体を揺らした。
 亀頭の窪みからはますます透明な蜜が溢れ出してきている。頼経も感じている証だ。
 頼経に抱かれてから、瑶子は様々なことを知った。閨の中での愛撫で気持ちよくなった時、蜜を溢れさせるのは何も女だけでなく男も同じだということも、頼経に教えられた。
 愛しい男が感じてくれれば、瑶子も嬉しい。
 少しの沈黙の後、瑶子は良人を見上げた。燭台の淡い灯りだけが照らす閨の中は静まり返っている。薄い闇が見たすしじまの中で、二人のまなざしが束の間、絡み合い離れた。
「止めるんだ」
 頼経の手が伸び、瑶子の頬にそっと添えられた。
「これ以上、そんなことを続けたら、私自身が保ちそうにない」
 それは瑶子の口の中で達してしまうことを言外にほのめかしている。
「良いのです」
 瑶子は頼経を真っすぐに見つめた。
「御所さまのお好きなようになさって下さい」