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私の読む 「宇津保物語」  楼上 上ー2-

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 一宮は、これから長い間逢うことが出来ない、と夜が明けると暮れるまで、犬宮と雛遊びをする。

「犬宮、他所へ行ったら、。お母さんが恋しくなりますか」

 と、聞くと犬宮は

「いいえ、琴が弾きたいから我慢を致します。そっといらっしゃいね。この雛にも聞かせてはいけないのでしょうか」

「どうして、その様なことはありません。連れていらっしゃい。父上の琴を聞きたいと言っていますよ。雛遊びは時々しなさい。琴を一生懸命習いなさい」

 一宮は犬宮と当分の間会えないのが本当に悲しく恋しいと思うだろうと、犬宮をじっと見つめていると涙がこぼれそうになるので、話が出来なくなる。犬宮に涙が出るような辛い話は避ける。

 仲忠は京極に移る者達の装束を供の者を含めて犬宮にも母君にも渡した。特に母には絹百疋、綾廿疋、織物、羅(うすもの)紗(しゃ)・絽(ろ)、染め物の材料を特に渡した。これらは尾張の守に代金を渡して整えさせた。犬宮へ渡した物は母君と同等である。

 京極へ引っ越すときに一宮も同行して三日過ぎて帰らなければならない。

 母君に同行する女房は三十人、童四人、犬宮も同じである。仁寿殿の女御供だけがずっと多い。一宮の供はみんな帰るので、数の制限はしなかった。

 供人の女房達は容姿が勝れている。内侍督の供人には少し年の多い者がいるが、それでも人よりは勝れて容姿も良く、たしなみや振る舞いは憎いほど立派である。

 一宮の女房は、宮が仲忠の北方となった時に召し抱えられた者達である。一宮の母君仁寿殿女御に仕えている女房の中から容姿が宜しく、性格たしなみのよろしい者を女御が選んだのであるから、他の者とは比べものにならない、勝れた女房であった。 

 京極の楼に引っ越すのは八月十三日。

 仲忠はかねてから特別に心を入れて引っ越そうと思っていたから、内侍督の車を新調した。車は濃い紫の糸毛に唐鳥(孔雀)を縫わせてある。

 犬宮の車は二藍に立涌の中に雲形を描いた模様
、秋の感じを出した薄、虫、鳥の形を色々と組み合わせて縫わせてある。艶めかしく美しい。

 牛の尾から架けた組緒に唐草の縫い取りがしてある。車の御簾の内側に懸かる帷(とばり)も香色の地に薄物を重ねてそれに蝶や小鳥の縫い物がしてある。

 犬宮の祖父の兼雅右大臣も同行して三日目に帰還するようになっている。兼雅も行列をしっかりと揃えられた。

 左大臣正頼も容貌の良い者達が行列を組む。

 朱雀院も、四位五位六位の見栄えの良い若い者達で内蔵人の経験のある者を選び、三条京極に行かれる犬宮の供をせよと命ぜられて、我も我もと願い出てあの賀茂の祭りのように行列を造る。

 この京極への引っ越しは左右大臣、朱雀院が或る限りの供をお出しになるので、官人の中で自信のある者は、この行列に加わらなければ、このようなことがあるのだと知らなければ、大変な恥であると、我も我もと、急いで装束を改め、馬だ鞍だと大騒ぎをして参加する。

 仲忠は母の内侍督の前駆(ぜんく)の者達の衣装は、若々しい女郎花の下襲を着るようにと告げる。犬宮の前駆は薄い二藍の物を着るように命じる。

 女房の車は、内侍督の上席女房の三車に乗車する者は紅色の袿、はじ色(赤みのさした黄色)の織物。下席の女房は、朽ち葉色、香色の襲に摺り大海の裳を着用すること。

 犬宮の上席女房は四台の車に、紫苑色の袿、赤色の二藍の唐衣、下席の女房は薄二藍、女郎花色などを着て、山藍で染めた色々な模様の裳を着用。童も同じような衣装を着せた。夏用の袴を着用させた。

絵解
 この画は、仲忠の殿、元あて宮、一宮の住んでいたところで、京極への引っ越しで大勢人が集まっている。


 酉(午後六時)である、殿の内に宮達に男(高位の者)達は車を並べて、式場の飾りとする。宮達に男達は集合した。仲忠が現れた。朱雀院より人々が集まり、

「出発を見届けてこいとの仰せで御座います」

 と、言って左馬頭源の宗義が参る。やがて、犬宮の女房の車の順列を決めて並べる。同じ時に内侍督の車も出てきたので殿の内では並べることが出来ないので大路に出て整理をすることにし、西門より内侍督の一行、東門より犬宮の一行が出てきて並ぶ。前駆は、犬宮には朱雀院から四位の殿上人十人、五位が廿人、容姿端麗な六位が廿人、殿上童二人、正装して束帯を付け美々しく並ぶ。これに続いて祖父左大臣正頼、犬宮の叔父達、仁寿殿の息子、中納言忠純、車で従う。祐純、近純は馬である。

 内侍督、右大臣兼雅には、供人として四位八人、五位廿人、六位十五人、六位と言うが、受領の子供雅楽助、主殿の介、兵衛の左右の尉などがいる。

 仲忠は春宮大夫を兼任しているから、帯刀十二人の中から選んで送られた、無官の四位五位であるが立派な者である。

 鍍金で仕上げた車、糸毛車、兼雅の方も正頼と同じく廿の車があるが、兼雅は、

「これは、車は目に見る通り私の方が劣っている。正頼は今や権勢が盛んで、正頼と仁寿殿が犬宮を後見なさっておられるのに私が劣ってなるものか、子供の数こそ及ばない。車はもう五台、此方は揃えよう、車の数では引けを取らない」

 と、言うのであるが、仲忠は、
「詰まらないことで張り合わないでください。今回は私が犬宮の渡りをしているのですから」

 と、止めようとするが、兼雅は、
「分かっているが、同じ事だ」

 兼雅は前々から正頼に対抗していたから、無理に車五台を増やしてしまった。車は廿五台になった。



 出発の時が来て、仲忠は犬宮達が乗る車を集合させる。犬宮が車に乗るときに、正頼と仲忠が几帳をさしかけて見えないようにする。犬宮が車に乗ると直ぐに仲忠は馬を飛ばして三条へ行き、母親の内侍督が南廂に出ているのを「お早く、お早く」と父の兼雅と二人で几帳を持って乗車させた。

 一宮の関係の人は見ていて、
「仲忠大将がこのように母君にかしづかれるのは何と立派なことでありましょう。帝が子をお持ちになろうともこの様な立派なことはなさらないだろう。仲忠のこの行為は立派なことであります」

 と、褒めていた。

 次々と車に乗られる儀式は理想的に立派な目出度いものである。三宮がこの様子を御覧になって、

「何と恐ろしいほど幸福なお方よ、たった一人でもこの様な立派な子をお産みになった事よ」

 と、姉の正頼北方と較べると、大宮が思いのまま多くの子供を産み孫も大勢で繁栄して賑やかだ。姉妹の間柄から考えても、遠慮無く話し合って互いに助け合うものなのに、そうも行かず、競争相と見るのは辛いことだと思うが、三宮は生まれつき不思議なほど心が美しく高尚であるから、

「しかるべく前世の約束なのだろう。梨壺が運良く入内しながら、春宮の気持ちが藤壺に向いていても第一の皇子をお産みになった今ではどうしようもない」

 と、自分の運がないことを嘆く。兼雅が三宮の許へ来られた。

 仲忠は、犬宮の車列が入り終わらない内に京極殿に来て、犬宮の車が近づき院の車と混じり合っているのを見ると、夕映えに照らされてとても美しく見えるのを、見物の車が牛を放して立てている人の中で、