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私の読む「宇津保物語」 國 譲 中ー3-

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 二宮の側に立てた几帳の帷子を女房達が掛けたまま降ろしていない。二宮は起きあがって小用をしようと思って入られるのを仲忠はしっかりと見てしまった。

 二宮は白の綾一襲をまとって、髪は寝乱れてるがそれでも美しく見える。姫達も起きあがるが、これはまだ小さくて、それでも高貴な品がある。仁寿殿はよくもまあこんなに多くの子供をお産みになったものよ、と仲忠は屏風の上から見ていた。

 そうして日が昇ると一日涼みながら網を打たせて魚を獲らせなどをして、。その日の夕方、帰途についた。

 弾正の宮達には兼雅は馬や鷹を差し上げた。女の宮には、黄金造りの箱に珍しい物を沢山入れて、一宮始め皆さんに差し上げた。

 犬宮には、小さい箱に昨夜の物を入れて差し上げた。

 乳母達には装束一具宛与えた。女房の中には髪道具を一式貰った者もある。

 帰途についた。  


 桂から帰って、右大臣兼雅は娘の梨壺の禊に出席する。仲忠に車五台を用意させて、出かける。三宮や若君達が参列された。

 二日ばかりして、兼雅の夫人で式部卿宮の娘で三条に新しくした殿に住む中君(梨壺の母)は、大七瀬の一つである東滝に車三台で出かける。兼雅は行かれず、仲の良い人達ばかりで出かけていった。兼雅は近江の守に言いつける。

「この東河に祓いをしに中君が行くから、河の水に近いところに車を立てさせて(止めて)そこで鮎などを食べるように準備をしてください。

 可笑しいと思われるだろうが子供みたいに自分からする人ではありませんから」

 と、言いつけた。


絵解
 この画は三条殿。


 こうして、藤壺も大七瀬の一つである辛崎に祓いをしようと、父の左大臣正頼と共に、兄弟達、その大勢の供を連れ、長い車の行列を作って行くほどに、大宮は、

「彼方の藤壺の車を先に」

 と、言われるので藤壺は、

「どういたしまして、どうぞお先に」

 と、言われて、車同士が競り合っている内にどちらの車も動かないので供の者は途方に暮れる。正頼みかねて、

「彼方の車を動かしなさい」

 と、指示されて、藤壺の車を先にして移動し始めた。これを見た人は哀れなことをと思うでしょう。

 辛崎で、お祓いを立派になさって、帰られた。正頼も帰った。藤壺にはいつものように順番を決めて藤壺の兄弟達が宿直をする。

 このようにして日にちが過ぎると、春宮から参内が遅いと仰有って、ある時は哀れに心苦しげに、ある時は憎そうに怨じなさって、文の使いがある。

 その使いの蔵人が言うには、
「梨壺腹の若君が春宮におなりになるだろうと皆が申すようになりました。

 政事にもしばしば春宮は参内される。昼はとくに妃の処には参られず、最近はお遊びも特になさいません」

 と、申し上げると、藤壺はその時々に応じて、一行ほど、二行ほどの返事を書き、また書かなかったり。

 そういう風にするので、誰もが言う、
「なあ、おかしな事をなさるではないか、大層無礼な例をお作りになった。このように春宮は藤壺に・・・・・・・」

 と、藤壺を誹る。
 
 正頼の殿には、正頼の方にも。藤壺の方にもまだ若宮は春宮にもならないのに、今から春宮付きの役人が多く出入りする。

 藤壺の第一皇子若宮の方には人々が集まって混雑して、若宮が春宮にお決まりになったかのようにして公然のこととなっているのを、正頼一族が見ているのに、もし梨壺の若君が春宮になればどうしようと、限りなく心配をする。

 正頼は、比叡山を始め山という山に、寺という寺に、必ず若宮が立太子なさるように願立ての修法を行わせて、七月の二十日(中の十日)になった。

 明くる日の夕暮れに、弾正の宮西の対の藤壺の許に来られて、お話をなさる。

「藤壺が里に居られる間に度々申し上げようと思っていたので御座いますが、辺りがいつも騒々しくて出来かねました。
 少し大人になりました私の気持ちをお聴き願って、貴女のご幸運にあやかりたいと思っていました」

「あえ物というものは、年が過ぎると実が現れると言うものでしょう。私も、今閑でぼんやりとしていますので話したいと思う人はありますが、誰も彼も私を忘れてしまったようです」

「私は決してお忘れ申し上はいません。こうして独身で居ますのはどういう了見なのかとお考えでしょう」

「さあ、やはり良いお相手をお待ちなのでしょう」

「大勢の方に送られる御返書を、たまには私にも下さい。もう待ちきれません」

「お文を沢山御覧になりたくて諸方へ文を出されるそうですが、どうして私のような者の文を御覧になりたいのですか」

 弾正の宮
「実は久しく独身で居るので、彼方此方で婿にと勧められるのですが、冷淡だった貴女の心が忘れられず、結婚する気になれないのです。以前のように冷淡にならずに、わたしをかくれ懸想人となさいませんか」

「おかしな事を仰る。隠れなくとも、知らない人ではありませんよ。こうしてお話しできるのも親しいからではありませんか」

 と、藤壺が言ったところへ左大辨師純が、

「事件が起きたようですね」

 と、言って入って来たので、弾正の宮は、。
「なんと憎たらしい。気が利かない単純な者、何しに来たのだ」

 と、話を途中で止めてしまった。


 藤壺の許、父親の左大臣正頼、長男の左衛門督忠純、十一郎の蔵人少将近純、十二郎行純侍従(宮あこ)が連れ立って参上してきた。
正頼が、

「何とこのような処で脚気を治したいものですね」

 と、言って楓の青々と茂った木の下に立ち、
若者達は、
「蹴鞠をするには格好の場所ですよ」

 と、言って蹴鞠に興じ始める。全員。が蹴鞠の巧者である。皆が蹴鞠のために衣装を替えて、宮達、正頼は直衣になっていた。

 仲忠も近純も蹴鞠が上手で、その動作も美しい。宮達は不思議な光景よと見つめていた。


 新中納言になった実忠が、藤壺に色々と言われたことがあったので、小野に籠もっていたが、このように小野に籠もってると藤壺は、なんとなく当てつけがましい、小野になんかに籠もらないように言ったのに、どうして、と思うだろうと考えて小野から下って京にやってきた来た。

 民部卿実正(実忠兄)は、
「山を降りられて大変嬉しい、遅くなれば迎えに参ろうと思っていました。

 ここはこのとおり不便ですから、普段住んでいたところでなんとなくよく感じましたので、先日二条殿に越しましたが、そこへお出でになって前から申しているように、一緒にお暮らししなさい」

 実忠
「何もそこまで行くことはありません、此所に暫く滞在いたします。尋ねるように仰る妻と子供はどうしていますか」

 実正
「大変暑かったので遠方までは参りませんでした。今少し涼しくなりましたら」

 と、少し冷淡に言うって、「それでは、行きましょう」と、言って一つに車に乗って出かける。

 車から降りて共に入ってくるのを北方達が見て驚き、几帳を立て直したりする。

 先ず実正が入って、
「何という見苦しいことを。これはどうしたことだ」

 といって、御簾を上げる。

 三条殿を預かるか家司達が跪いて主人を迎える。