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私の読む「宇津保物語」 國 譲 中ー3-

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「そんなに言わなくとも、此所にはその様な恥をかくような上の方はいませんよ」

 実忠が取り直すが、慎重な態度で中には入らない。実正、

「どうぞ入って。女でも遠慮はしないところです、えらく、お僻みになっている様子ですね」

 と、言われ円座などを用意させられるので、実忠は渋々中に入った。ゆっくりと中を見回すと、奥の方に小さな几帳を立てて人がいる気配がする。柱の許に若い清楚な女が一人いる。実忠は不思議に思って、
「不思議と、おかしな方だ」・・・・・「平気で居られるようです。貴女は藤壺の姉君、実正の北方であるから美しい方でありますな」

 実忠はなお若い娘を見ていた。

 娘は、何としても父にお会いして、父上のお顔が見たい、と思って伯父の実正が見ているのもかまわずに差し向かいに座っていた。

 実忠は、娘とは知らず姫君の美しさに見とれていた。実忠の北方は自分を実忠が見ると知ってしまうだろうと、言葉も言わない。

 実忠が見つめている姫は、自分が娘の袖君であるのに気がつかない父を「何と悲しいこと」と、思うと、我慢が出来なくなって、静かに泣き出すと民部卿実正は大変可愛そうに思って、実忠に、

「思い出さないのか」

 と言うと、実忠は真面目になって物も言わない。実正は、

「この姫君をここまで成長される間、あなたは情がなくお世話をなさらなかったから、それで考えがあってここへお連れしたのです。

 これからは実忠、貴方もここにいらっしゃい。世の人がしないようなことは長続きはしませんよ」

「髪もこのように綺麗なられましたよ」

 実正は袖君の髪を手にして実忠に見せる。

「もう一方、北方もここいらっさやいます。天下に求められても北方に優る人は居ませんでしょう。実正を常識ある人と思いならば、私の言うことを聴いて、ここにいて下さい」

 実忠
「袖君、久しく合わない間に随分と大人になったのだな」

 と言って涙を流す。以前から実忠の傍に仕えていた者達も集まってきて涙を流す。前に座る亡き真砂君の乳母を見て、実忠は更に涙を流す。心の中では「このようなところに、思いも掛けずに来てしまったものだ」と思っていた。

 実正
「亡き父上がご存命の時は母親のように折々の洗濯物のことなどお世話なさいましたが、今は女兄妹と言っても、父君に対するほどの気遣いはしてくれない、

 実正などは自分のことでさえ、気に入った者が居ないのですから、世話をしてあげたい気持ちはありますが、思うようには出来かねます。

 実忠はこうして世離れ人になったのであるから北方のことは宜しい、お構いなさるな。
袖君の後ろ立てになって万事御後見人となったつもりでお世話をなさい」

 と、告げると、実忠の供の者をそこらに休息させて食事を振る舞われる。

「遠くよりお出でになて、そのままここへお連れしたのだ。しっかりご馳走を差し上げて」

 と言われたので、実正の女房達が黒い御膳一具、美しく盛り付けしてみんなの前に置いていく。

 食事の世話をするのは袖君と真砂君の乳母であった女房そしてその他大勢、少し歳は取っているが実忠の顔見知りの者ばかりであるし。給仕をする童一人だけは知らない顔であった。