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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー2-

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 箱を開けてみると金が入っている、それを柑子の壺の中に移し入れて、口まで一杯にして、蓋をして黄ばんだ薄紙に包んで、一つには

 契り置きし昔の人も忘れずて
      君をば訪はぬ我かあらぬか
(父君と昔固い約束をしたことを忘れてはいないのに、貴女を訪ねないという私は、本当の私ではないのでしょう)

 と書いて入れた。栗の所には、

 宿を出でてあとも枕も定めかねば
文やる方もそこはかとなし
(宿を出るとどこと言って当てもなくさまようので、どう歩いているのかはっきりしないのです)

 残った一つは、橘千蔭の妹に、

 出で入りし宿を形見と眺めつゝ
住むをあはれと聞かぬ日ぞなき
(私が通った宿を形見として、物思いに沈んでいるあなたを哀れと思わない日はありません)

 と、兼雅は和歌を付けてそれぞれに印を押して。
「これは南の大殿に、これはどこそに」と言いながら、仲忠に

「それではこれを送ってくれ」

 と、言うので仲忠は、側近くに仕える童が小舎人として供をしていたので、その童を呼んで、「これはあそこへ、これはこちらへ」と指示をして「それをそのまま置いてだけしてくるのだよ」と、言って渡す。

 仲忠は
「除目が御座いますがお出でになられますか」

 兼雅
「何で参内なんかしようか。外を歩けば、お前のために面目潰れで、私を人間らしく扱ってくれないし、生き甲斐もないのだから。兼雅は正頼が大臣になったとき、自分は昇進しなくてそのままであったこと等に、不満を持っている」

 仲忠、
「大臣に闕官(けっかん)が無ければどうしようもありません」

 兼雅、
「どうして、闕官がないことはないだろう。この頃は正頼一族で独占して金釘のように固めてしまったが、金釘をある場所に打たれてしまうと人事は動かないものなのか。お前を仁寿殿の娘一宮の婿として、中納言にすると言ってあけられた闕官には、親である私をすべきであった。

 正頼は仁寿殿を大切にして、お前の親の私を超して仲忠を中納言に据えた。けしからん事である。

 正頼は自分を右大臣にして、参内して勝手気ままに振る舞っている。事がなければ親交はしないでおこう。

 新嘗祭の宴席には出席しないと思っていたが、久しく参内しないので帝のご機嫌伺いにと参内してみると、右大臣正頼は、我が物顔で得意になっているし、孫達は選りすぐった玉のように並んでいる。

 その孫達に、伯父である正頼の子供達が床を舐めるように平伏して、甥達は雲の上にでもいるかのように居並んでいる。

 そこで、将来東宮になる皇子達を思うと、私など縁がなくて気が塞がってしまう。

 どんな人がそういう御子を産む娘を持つのだろうか、と思う。

 そうかと思えば、一方には娘藤壺がいて、蜂の子のように御子を産んでいる。天の下の皇子達は正頼の子供達、藤壺や仁寿殿が引き受けて産んでしまわれるようだ。

 今頃妊娠しても十二月の月夜のように誰も顧みない技をした梨壺は、どうせ貧弱な女の子を産むぐらいの者だ。不幸なものはどうだ、このようなものよ」

 夫の兼雅の愚痴めいた怒りを聞いていた北方内侍督は、

「どうしてきちんとお話にならないで、品お悪い毒付くような言い方をなさいます。昔を思い出されて不機嫌におなりなのでしょうか。仲忠を子に持って嬉しいとは思われませんの。

 まだ腰が曲がるほど年をおとりになっている訳でもありませんから、人並みに出世なさることもありますでしょう。

 娘ではうまくいかなかったとしても男の子孫にもいいことがありますでしょう。

 本当に情けないこと、世間の人が思いついたことを、はしたない人だけが口にする物です。

 貴方のような方は特に口にはなさらないことですのに、わざわざ大変に詳しく仰るものですね」

 兼雅は急に気まり悪くなって冗談に紛らし、北方の髪をいじり出されるので、北方は後ろ向きになられる。その際に髪が広がって座敷一杯に広がって見事である。

 兼雅は北方の後ろ姿と部屋一面に広がった髪の美しさを見て、

「この美しい後ろ姿に見せられて、私は聖人になってしまったのです。

 きれいな美しい女性を多く呼びよせ、下仕えもよろしい者を集めて、女三宮を奪うようにして連れてきて、然るべきお方と崇めて、人妻であろうとこの女と思う所はすべて行き尽くして不義をして歩いて、みんなから憎まれていた私である。

 今時の人は不思議に真面目である。私は恐れ多くも天下の帝の御娘三宮を妻にしながら、宮の御姉妹の皇女達や、人妻ならば帝の女御まで残さず自分の者にした。

 私の前世に罪がなかったので、女遊びは私には許されていたのであろう」

 と、話されると仲忠は、

「仰ることは、決して愉快なことではありませんね。私がまだ独り身でありましたとき、どうかして妻にしたいと思いました、あて宮でさえ、良い機会がありましたのにそうはいかないでしまったのです」

 兼雅
「私であれば、お前のように何もしないで引き下がることはしない。今でも行こうと思えば行きますよ。

 目指す女が里に戻っているならば、酔ったふりをして、女の部屋に入ってしまうのだ。

 その家の者達が騒ぐと空とぼけて、

『大変に酔ってしまいました。此方はどなたのお屋敷で、中の大殿ではありませんか』

 夫と息子の話を聞いている北方は、

「ずいぶん悪いことを大層なさったのですね。
 仲忠は親がなんと言われようと、そんなことを聞かないで彼方に早く行ってしまいなさい」

 兼雅
「男という者は自分を反省して、外聞を憚っていたら、理想の妻を得られないよ。普通に文通して、親から許される時を待つと言うようなまだるっこい事では何も出来はしない。

 相手の隙を見て、すっと入ってしまえばいいのだ。
まして、おまえが心を乱して漁り歩いたところで、いい女にぶつかるものではない。藤壺と涼の北方今宮を早く自分の者にしてしまいなさい」

 などと言う。

(この後しばらく意味不明によって省略する)

 仲忠は帰っていった。兼雅は、
「妙なことをする仲忠だな。自分だけ宿徳に(いい子に)なろうと思って、軽々しいことを。そなたの競争相手を引っ張り出そうと言うわけだな。

 仲忠には考えがあるというのなら、駄目だとも言えない」

 と、兼雅は言うけれども、心の中では悪とは思っていなかった。それより仲忠に感謝するほどであった。


宿徳(しゅうとく)
1 僧などが修行して、人徳のあること。また、その人や、そのさま。
2 落ち着いて威厳のあること。重々しく、どっしりしていること。また、そのさま。
(ネット コトバンク)


絵解
 画面は三条堀川殿。兼雅夫妻と仲忠の話しているところ。

 
 こうして涼中納言の息子の産後七日になって、涼の祖父紀伊守種が、、七夜の産養の料理を引き受けて、宴席を準備して御座所の準備をする。

 御簾は浅黄で緑の縁取りをする。南の廂に壁代、御簾(みす)の内側にかける布を巡らせた。布には白綾を使って光沢を出した。