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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー1-

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「それは前々から春宮が『そういう時は考えよう。藤壺の思うようにすればよい』と、春宮が仰っていらしたから、その通りにお任せいたしました」

「贈り物に黄金が沢山使われていたが、あれだけの物をどうされたのだろう」

 藤壺女御兄の祐純に、

「それが大変で、春宮を煩わさせました。
 帝に奏上して、帝の御前に候陸奥の国守をお呼びになって、黄金を送らせするようにして。それでも不足するので、黄金の下は異物を置いたと聞きました。誰か見たでしょうか」

「仲忠が持って、じっと詳しく見ていた」

「まあ、恥ずかしい」

 仲純は退出した。


絵解
 この画は、藤壺


 祐純は北大殿に正頼を訪ねる。

「先日参内したついでに、藤壺に会ってきました。いろいろと話をいたしました、藤壺も何かと申していました」

 正頼
「女一の宮の産屋のことでも思い出したのであろう。世間の評判はどうであろうとも、皇室以外の者達には限界ということがあるものを、人には容貌や心、振る舞いが目につくものだから、仲忠と一の宮が仲睦まじいのを妬む者もある。

 それで、藤壺は嫉妬を感じているのだろう。春宮を心の中まで感じ取ることができないのか。あの娘にはまた目覚ましい男が現れるか」

 祐純
「男の私でさえ、憎めない男です仲忠は。
 亡くなった侍従の仲純は仲忠を妻子のように思って、それで他所へ通うことをしなかったのです。

 男同士でもそうなのです。もしそういう人と結婚できなくて、宮仕えで夜昼無い勤めをしたなら、大変可哀想です」」

 母の大宮は
「気を付けなさい、壁に耳ありですよ」

 祐純
「嘘であれば慎まないといけませんが。『よくも本当のことを知っているな』と、聞いた他人は言うでしょう。

 子供を育てたのは仲忠ただ一人ですが、母の内侍督は立派に仲忠を養育されました。あのようになされませ。

 私たちのように大勢の兄妹でも豚みたいで、世間の役に立つ者は一人もなく、珍しく役に立つかと思われた仲純は、短命で亡くなってしまって。

 実は、亡くなった仲純の執念の道ならぬ罪障のために成仏できないで、藤壺の夢に現れると言うのです」

 と、藤壺は申していました。

 正頼
「どういう訳でそんな夢をあの娘は見るのだろうか。私たちそしておまえ達兄妹を恨むと言うこともあるまい。官位のことで恨みがあってもこれは決まりがあること故」

 祐純
「男の執念は女のことに関してはしつこいものです」

 正頼
「この一家では誰であろう」

 祐純
「中の大殿の妹たち女房達の中にきっと居ます」

 大宮察するところがあって、
「そうだ、そのことだ」
 と言うと、涙を流して大泣きされた。正頼は、
「どうして、そのような様子がありましたのか」

 大宮
「いいえ、そんな風には見えませんでした」

 正頼
「そうだろう、仲純はそのような素振りを見たのであろう」

 大宮
「すべては、良かれ悪しかれ男は男として、女は女として別に住ませるべきでした。

 中の大殿で始終一緒に暮らしていて、可愛い姫達が大勢いましたから、そのような恋い心を抱いたのかもしれません」

 正頼
「仲純の相手は一の宮であったのであろう。宮は男が思いを寄せる美人だから」

 祐純は両親の会話を聞いていて的はずれなことを言っているとは思うが、何も言わなかった。

 祐純は仲忠の北の方になった一の宮が好きだた。今になっては、近寄ることも出来ない。人には言わず自分の心に仕舞っている。

 祐純は両親に、
「ともかく仲純のために、これから経を唱えてください。その誦経の文には、執念の罪障を免れしめ給えと書いてください。このことを右大辨季房朝臣に言われて願文にして書かせて下さい」

 と祐純は言って両親の前から去った。

 大臣正頼は三男の祐純が去っていくと、大宮に

「祐純はどうしたのだろう、何となく落ちきのない感じがしたな。大変に真面目な男だと思っていたのに、なんで、馬鹿げた話をくどくどと喋るのだ」

 大宮
「誰か女に思いを寄せて前々から文を通わせていたのではないでしょうか。それが今になってどうにもならなくなり、望みがないと勝手なことを言うのではありませんか」

「情けない、親子というのに、そんな恋愛事件を抱えているとは、相談でもすればよいのに」

 それでも、正頼は亡き息子仲純のために、七日ごとに布を七匹づつ渡して誦経を四十九日させなさった。

 大宮もそれに絹を加えて精進された。


絵解
 この画は北の大殿。


 こうしているうちに犬宮生誕五十日になる。
 祝いの餅は仁寿殿女御が賄おうと考えて準備をしていた。帝はそのことを知って、内々に祝い物を届けようと思い、頭中将に、

「こういう風に考えている、正頼の家でないところで、誰にも知られないように準備をすること。
 祝いの調度その他は、納殿にある物を必要に応じて取り出しなさい」

 と命じになったので、実頼は太政大臣の曹司(ぞうし)使用人の部屋で品々を揃える。
 唐物の銀を使って巧みな細工師を集め、いそいで作らせた」

「勅命で頭中将が、こういう事をしておられる」 という噂が広がって、あちこちから、檜破子
が、精巧な作りで送られてくる。

 上手な細工人には、事情を話して手ぬかりなくことを進めた。

 五十日の祝いの日になった。

 仁寿殿女御は、母の大宮に、

「犬宮に餅を食べさせる日がきました。どうしたらよろしいでしょうか」

 と、問うた。母の大宮は

「他人には分からないようにして、沢山用意することです。それはここで出来ます。わけても、沢山こしらえなければ、はじめからなにもしないほうがいい」

 女御

「ご心配には及びません。沢山用意いたしました。そちらに持ってあがりましょうか」

 と、女御が答えると、大宮は、
「只今そちらに伺いましょう。今日はせめて渡って孫娘を見てみよう」

 と、仰ると、渡ってこられてた。

 頭中将は大宮達の料理を作って御前に並べ、五十日の祝いを受ける犬宮には、銀の折敷に同じく銀の高杯を据えて十二並べる。蓋つきの食器、御器は直径が三寸の沈の木をろくろ仕上げで作った物を、餅四折敷、果物四折敷、心葉(器の上に覆いとするもの)は清らかな物を被せた。

 大宮以外の親族達の御前は、浅香の折敷十二ずつを置いた。

 檜の破子全部で五十荷、全て、沈、蘇枋、紫檀を材質にしている。

 台、朸(おうご 物を荷(にな)う棒)、なども材質は同じ。袋や敷物の口をくくる緒なども清らかに作られてある。

 食器の中は皆食べ物である。もう一つは重ね破子一重ね御膳に出すばかりに準備が出来ている。ただの破子五十荷を添えて参上していた。

 御前の折敷には大宮、一の宮、女御の前に置く。重ね破子は中取りに乗せて、一の宮と仲忠中納言に参る。内侍典、大輔の乳母より女房達まで。

 檜破子を三十荷に、普通の破子を五十荷添えて内侍督の夫兼雅に、女御の文を添えて、

 毎日おめにかかることもなく、五十日の祝いの日が来ました。それよりも・・・・・

 と書いて、これは、