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かざぐるま
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kyoko

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『作戦開始』

 今日は僕の兄貴と会う日だった。年は三つ離れているが、今も時々連絡を取っているから仲がいい兄弟だとも言える。大樹という名前だが、背は僕よりも少し低い。
「よお、俊介。アパートが燃えちゃって美人の同居人とシェアしてるんだって? うらやましいなこの野郎!」 
 喫茶店に入って来るなり、僕の頭をくしゃくしゃにしながら大声でからかう。
「それがさ、兄貴。とんでもないことになっちゃって……」
 事の顛末を話すと、黒く日焼けした顔に皺を寄せて兄貴はしばらく黙った。そして煙草に火をつけながら口を開く。
「じゃあ、おまえはそのヤクザたちに復讐したいんだな?」
「いや、復讐じゃないんだ。僕は杏子さんさえ取り返せばそれでいい。でもそのためには普通の方法じゃ無理だと思う。そこで兄貴の力を借りたいんだけど」
「俺の力? 俺なんて世界中を飛び回ってるだけの怪しいイケメン商売人だぞ。とても力になれるとは思えんのだが」
 イケメンの部分を突っ込んで欲しそうな顔をしていたが、ここは軽く流す。
「兄貴、良く聞いてくれ。僕はこれから大金が必要なんだ。取り返すにしてもまずは資金を作らなければならない。何でもいい、儲かる商品は無いかな?」
「商品ねえ……。日本の法律で認可されてないものなら魅力的なものがあるぞ。でもその前にひとつだけ聞いておきたい。おまえは金を集めてヤクザにでもなるのか?」
 手を顔の前で組みながら、僕の心を覗き込むようにじっと眼を見つめる。
「ヤクザじゃない。僕は『正義の組織』を作りたいと思ってる」
「ほう。じゃあその組織を作るためには、危ない橋を渡る覚悟があるってことか?」
 兄貴の眼をまっすぐ見てゆっくりと頷く。
「おまえは昔から言いだしたら聞かないヤツだったからなあ。……分かったよ。ただし、何があっても俺はおまえの兄貴だぞ。これからも遠慮なく頼ってくれ」
 納得したような顔で兄貴も頷くと、鞄から手書きの書類と数枚の写真を取り出した。
「うえっ! 何これ。顔ダニ? これのどこが魅力的なんだよ」
「良く読んでみろよ。中国にいる友人がやっている小さな研究室での話なんだが、三か月前に凄い発見をしたそうなんだよ。だが、その前におまえに顔ダニとは何かを説明しないといけないな」
 出されたばかりのホカホカのパンケーキを目の前にして、ここから顔ダニの話が始まった。彼らの芋虫やナマコみたいな拡大写真を見ると、なんだか食欲が無くなってくる。
「まず顔ダニっていうのは百パーセントの人間の顔に生息している。代表的なニキビダニなんて種類が五千種類もいるんだぞ。んでコイツらは夜行性だから、夜中に人間の皮脂腺からごそごそと這い出してきて、そこで排泄物を撒き散らしたり死骸になったりする。想像するとちょっと可愛いよな。なんでわざわざ出て来て死骸になんだよって。別に出て来なくてもいいじゃん、マジウケるし! はははははは!」
「ちょ、ちょっと兄貴、声がでかいって」
 相変わらず何かに夢中になるとコイツは声がでかくなる。案の定、スパゲティを頬張っていた隣のカップルが手を止めて、何か言いたそうな厳しい目で僕たちを睨み付けていた。
「わりい。ところでな、こいつらは悪いことばかりするわけじゃない。なんと! 人間の肌を究極の弱酸性に保って皮膚を保護してくれているんだ。例えばコイツらが一匹も居なくなったら、人間の肌の防衛力がごっそり損なわれてしまうことになる。ここまではいいか?」
「うん。でも、それとさっきの話とどういう関係があるんだ?」
 兄貴は顔を近づけて僕にしか聞こえないような声で続ける。
「で、その朴ってヤツが見つけたんだよ。そいつらと共存して、しかも『肌を活性化』する顔ダニちゃんを。つまりこれを塗るだけで、肌がツヤツヤになって皮膚そのものが若返るっていう寸法さ」
 ニヤっと笑いながら次の写真を取り出した。
「どうだ? これが塗る前と塗った後。あきらかに違うだろ? 大体三日もすれば効果が目で分かるほどに現れる」
「この写真て前後が逆なんじゃないの? てゆうか、そもそもどこで発見したんだ?」
「俺も最初はそう思ったよ。休暇で中国の小さな村を訪れた時、そこに住んでいる住人の肌が妙に若々しいことに彼は気づいたらしい。不思議に思って現地の老人を一人連れて帰り、皮膚を詳しく調べてみたんだ。すると……。今まで見たことの無いような新種のダニが顔に生息しているのを見つけた。これがその写真だ。不思議な事に、老人なのに皺ひとつ無いだろ? これで八十歳なんだってよ。で、独立して彼は今もこの研究を続けているんだ。まったく、中国四千年の歴史ってのはスゲーよな」
「うーん。あのさ、これって良くあるインチキ商法そのものみたいなんだけど」
「ばあか。弟を騙してどうするんだよ。もし良かったらそいつに会ってみるか? ただ……紹介はするが、これは非合法ってことを忘れんなよ。おまえがその杏子さんを取り返すために何でもするって覚悟があるなら俺は力を貸す」
「ありがとう兄貴。んじゃ僕、明日会社を辞めてくるよ」
「え? そこまでする必要は」
「いいんだよ。ハンパな気持ちじゃ資金は作れない。協力してくれる人もいることだし、すぐにでもアポをとってくれ」
「ったく、せっかちな所は変わってないなあ。分かったよ、段取りはまかせろ。じゃあこの件はおまえに丸投げするぞ。最後に――いいか? 日本に上手く持ち帰っても、広告を打つときは細心の注意をしろよ。ガチで捕まるぞ」
「分かった。実は計画がまだあるんだ。その時はまた連絡するよ」
「うーん、なんかイヤな予感しかしないなあ」
 無精ひげを撫でまわしながら、兄貴は白い歯を出してにかっと笑った。


 それから一か月が経った。何とか杏子さんと連絡取りたかった僕は、数日前についに彼女のものと思われるSNSのプロフィールを見つけ出した。
 前に「知らない? このゲームって今凄く流行ってるのよ」と見せられた画面とハンドルネームをかすかに覚えていたのが幸いした。そこから多数のユーザーの中からやっと彼女にたどり着いたのだ。それは三日前に更新されていて、『家で花嫁修業という名目での監禁生活です。一年後には好きでもない悪い人と結婚が決まっています。生きていても、この先何にもいい事ないなあ』と書かれている。まるで誰かにSOSを出しているような、深読みすれば自殺をほのめかすようなメッセージだった。住所は大阪、身長も趣味も一致している。たぶん彼女に間違いない。
「あまり、時間が無いな」
 そう呟きながらマンションの床に大量に積み上がった『肌活性』とラベルが貼られた段ボールに目を移した。とても個人輸入品として使う量では無い。しかし今はあらゆるツテを使ってこの商品を集めた。ただし個人として使う分には問題は無いが、これを売るとなると確実に薬事法に引っ掛かるだろう。
「ねえ、こんな物大量に集めてどうするの? 手伝ってもらったお店の子も不思議がってたわよ」
「もちろんこれから売るのさ。効果は現地で確認済みだ。良かったら理絵さんも使ってみない? 肌が信じられない程若返るよ」
「マジで? 使う使う! で、中身は何なの?」
作品名:kyoko 作家名:かざぐるま