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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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kyoko

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 慌てて自分の席に戻った理絵ちゃんが、椅子の背もたれを持ったまま立ち尽くす。『犯罪者という言葉を聞いて冴子の肩がびくっと震えたが、今度はちゃんと前を見据えて僕の質問に答えるために口を開いた。
「……はい。理不尽な事をされた人が、それを憎むのは当然の事かと思います」
「ごうかーくっ!」
「はあああん!?」
 これは理絵ちゃんの叫び声だ。ぽかあんと開けた口から可愛い八重歯がちょこん覗いている。
「だってさ、この人は悪と戦いたいって言ってるんだよ? もともと彼女は悪じゃないんだ。刺したにしても刺してないにしても、騙された事は本当だと思う。しかもこの採用で人ひとりの命はとりあえず助かる。まあ、僕にまかせてよ」
「まあ、俊介さんがいいって言うならまかせるけど。いつかいきなりあの子に刺されてもあたし知らないからね」
「分かった。彼女は僕が寮に案内する。じゃあ一時間後にまたここで」
「はあい、了解」
 ちょっとふて腐れた様子の彼女を残して、冴子と一緒にオフィスを出た。
「なあ、きみ本当は刺してないだろ?」
 オフィス街の空気は湿っていて、今にも雨が降って来そうだ。冴子はまたびくっと肩を震わせ並んで歩く僕の顔を見上げた。
「……どうして分かるんですか?」
「やっぱりな。だってさ、横領するほどのポジションにいる上司が家族と一緒に住んでいない可能性は低い。別居してたりしたら出世に響くだろうしね。その奥さんや子供のいるマンションに乗り込んで、彼を包丁で刺すなんてことは至難の業だ。例え刺したにしても、男ひとり現場から浴槽に運ぶなんて、君の力じゃとても楽な作業とは思えない。それに君のことを少し調べてみた。君はあの『愛優倶楽部』に入っているね?」
「はい」
「知っての通り、あそこの審査はそこら辺の一流企業よりも厳しい。何より、人を殺すなんて考えを持っている人が審査を通る可能性はゼロだ。あそこの精神面の審査を通る人なんてほんの一握りしかいないそうじゃないか。その一点だけでも僕は君が人を刺すなんてとても思えなかった」
「でも、横領の押し付けは事実です。それが明るみに出たら、私は……」
「だから責任を一人で被って死のうと思ったのか」
 彼女は無言で前を見つめている。
「なるほど。ところで、その金額は?」
「およそ一千万ほどです。私にはとても払えません」
「大金だな。でも何とかなるかもしれない」
「え、本当ですか?」
「うん。これから僕のやる仕事を手伝ってもらえるなら」
 冴子は少し遅れて歩いていたが、歩調を早め僕と肩を並べた。
「その仕事って合法ですか? それとも」
 彼女の興味深そうな眼が僕の顔を撫でまわす。
「さあ、どうかな」
 にこっと笑った僕の口元を見た冴子の表情が、今の空と対照的にこの時すっと晴れて行くのを感じた。
作品名:kyoko 作家名:かざぐるま