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私の読む 「宇津保物語」  初秋

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「正頼殿がお持ちの承香殿御息所の文と、兼雅が持つ仁寿殿の文と競べようと思うから、先ずはなんか物を賭けなされ」

 正頼
「何を賭物にしましょうか。正頼の娘一人を賭けましょう。貴方は何を賭けられますか」

「兼雅は、此処にいます仲忠を賭けましょう」

 と二人とも子供を賭物として出して、お互いに取り寄せた文を交換した。

 お互い優れた文だけを取り出して持ってきた物で、兼雅の持ってきた文は銀の清らかな透箱に入れて、敷物などは立派である。

 正頼の文は、虫が食った浅香の木目を削りだした箱に、唐草や鳥を透かし彫りしたのに入れて、お互いが見せ合うが、文箱は優劣が付かず、筆跡や文句もどちらが優れているか判断が付かない。正頼は、

「仁寿殿は技能にすぐれている女性です。承香殿は後世に名を残す、世に評判の嵯峨の御代の女御です。その承香殿に劣らない手跡で、仁寿殿は書いています。ところが、どうして私の所に寄越した文はこれに似ていないのでしょう」

「むしろ、仁寿殿の御文は当世風な点で勝っていました。あいこですね」

 と、二人の賭物になった子供、仲忠を正頼が、正頼の娘を兼雅がお互いに取ることになった。

 そうして、楽器演奏を色々な物を音色や声を合わせて合奏すると、仲忠が言う、

「仲忠多くの箏の琴を調子をととのえたあとで、ためしに一曲奏してみると、ある日藤壷で合奏致しましたときほど感激したことはありません。

 あて宮が琵琶を私の箏に併せて演奏された。それを耳にして、この世のものとは思われませんでした。

 昨今の琵琶の一人者は良行正少将であります。行正に併せて演奏をすることが度々ありますが、行正にも出来ないような素晴らしい手を何とも言えない素晴らしい調子でなさいました、

 不思議だったのは、調子よく他の楽器と合わせることが難しい曲を、この上なく上手く合わせて演奏されたのを隠して、上手く弾けたとは思えない仲忠の乱れた手に良く合わせていただいて貰いました。誰もそれに並ぶ人はいません。

 私の手に合わせて演奏された琵琶が素晴らしかったので、大事な宮中の演奏会のために取って置いた曲を全部出し尽くしてしまいました」

 正頼
「本当に冗談にせよ、仲忠の弾く箏の琴に、不思議に少しも間違わずに琵琶を合わせると承っては、あてこその琵琶も相当なものでしょう。そうは申されても女の琵琶を弾く姿は余り褒められたものではないですね。特にこれといって習ったような様子はありませんでしたが、どこで習ったのでしょう。

 実は、その、あてこそ、と合奏された日も気づいたことですが、特別薄く漉いた紙に書いた文が、貴方の懐から見えたのを。隠しになったが、あれは何方からの文でしたか。

 正頼はその文ほど見たいと思ったものはありませんでしたよ。誰からでしたか」

 仲忠の答えは、
「何でもありません。その文は里から送ってきたもので、使が持ってきたのです」

「まあまあ、その様な見え透いた嘘はお付きにならないで下さい。里からの文にあのような上品な紙は使いません。床しい心のこもった文のようでしたよ。それは確かのようでした」

 仲忠笑って、
「紙ですね。あり合わせの物を使ったのでしょう。仲忠は生まれてこの方嘘というものは言ったことが御座いません」

「このことを手始めとして、嘘の付き方を習われるのでしょう」

このように遊び暮らして厩の前に飼馬槽(かいばそう)を立てて馬に秣(まぐさ)を与える。正頼は右大将兼雅に馬を上げようと思い、弓の的を準備して、子供達を呼んで、弓を引いて遊ぼうとすると、池の中の島にある五葉の松に、頭と下面は白色の鶚(みさご)が池から飛び立ち三寸ばかりの鮒(ふな)を口に咥えて止まっているのを正頼が見付けて
 
「あの鳥を射当てた者にこの西の厩の十疋を賭けよう」

 と言う。右大将は
「みんな弓を射よう、兼雅も参加するぞ」

 と言うと正頼は、
「しばし待って、鳥が感ずけば命中しないだろうから、鳥が飛び去っては興醒めだ。射芸に通じ兵衛尉先ず試してみよ」

 と、言われて正頼と兼雅も同時に弓を引いて構える。正頼は、西の厩に大事に飼っている五尺の鹿毛、九寸(き)の黒、と言う有名な馬二頭を賭けて、兼雅は、飼っている鷹を二羽、いずれも評判の高い鷹であるのを賭けて、、まず正頼より矢を放つ。

 正頼は思惑があって、兼雅に賭物の馬を上げたいと思っているので、命中させようという気持ちが無くて、ただ鳥が飛び立たないようにと心がけて矢を放つ。とんでもない方向である。

 兼雅は、自信を持って鷹揚に立ち撃ちに構えて矢を放つと、刺すように咥えた魚も一緒に射当てて鶚(みさご)は池に落ちた。居合わせた人々はやんやの喝采である。正頼は厩より賭物の馬を引いてこさせて、兼雅にあげる。その厩の別当、預かり、二人は駒遊びをさせながら引いてきた。

 夜が更けて兼雅は頂いた賭物の馬、九寸の黒、もう一頭の鹿毛の馬と引いて一緒に帰るときに、仲忠は兼雅の厩の別当や預かりや寄人達と共に舞しながら馬を受け取る(当時の作法であろう ).。

 そうして、馬を引いてきた別当、預かり二人に料理と酒を出して歓待する。宰相中将が盃を取ってしきりに酒を勧める。一夜催馬楽の「その駒」を演奏し歌う 

 其駒ぞ や 我に 我に草乞ふ 草は取り飼はん 水は取り 草は取り飼はん

 で,これを2回歌うが,1回目を其駒三度拍子,2回目を其駒揚拍子(あげびようし)といい,後者には人長(にんぢよう)の舞がある。

 この歌詞は,本来は本歌(もとうた)として

 葦駮(あしぶち)の や 森の 森の下なる 若駒率(い)て来(こ) 葦毛駮の 虎毛の駒

 があり,その末歌(すえうた)としてあったものであろうが,古くから末歌のみを用いたらしく,諸本は,ある説としてのみ〈葦駮の〉の歌をあげる。 (コトバンク)


 一夜みんなで、神楽歌の「その駒」を歌い明かして、明け方に、女装束一具、白張り袴一襲、袷の袴一具を与えた。

 被物を戴いて兼雅は家に戻ると、飼っている鷹二羽を、正頼への贈り物として、馬を引いてきた正頼の厩の者に預けて帰らした。

 正頼は兼雅が贈った鷹を受け取らず、
「この鷹は、もう一回兼雅様が此方にお出でになって、もう一羽の鶚(みさご)を私が射落とした時に頂戴いたしましょう」

 と言って返された。兼雅は
「兼雅は、鶚を射落とし、正頼様は中島をはずして矢を放たれた、おかげで私は鶚を射ることが出来た。だから当然、この鷹は貴方がお受け取りになるべきものです」

 と、再度贈られた。正頼は
「強いてお返ししては頑固者のようだ」

 と、言って、正頼の鷹飼いに高麗の楽を舞わして受け取らせて、帰る兼雅の鷹飼いに右近中将祐純が酒を勧めて饗応して、帰る際に、細長を添えて女の装束一具を渡した。

 兼雅は
「実に物事をわきまえたお方だ」
 と、正頼を褒めた。仲忠の母である北方に、正頼宅で過ごしたことを詳細に語った。

 こうしていると、正頼の屋敷に左の相撲取りが大勢集まってきた。正頼は椅子に座って簀の子に居て、
相撲取り達に