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私の読む 「宇津保物語」  あて宮

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絵解
 この画面はあて宮が参内するところ。次々と車が動き始めるところ。
 
 次はあて宮が車から降りるところ。大人や童があて宮の後に従う。

 二枚目の画は、あて宮の局。春宮から靫負(ゆげい)女房が迎えに来てあて宮が春宮の許に登る。

 源少将仲頼が木工女房と話をしている。


 こうしてあて宮は春宮の許に入られてからは、毎晩春宮の許に参内する。あて宮は色々な技を上手く出来るので、春宮はあて宮を遊び相手に管弦を楽しむ。

 春宮に仕える他の妃の方々。
 あて宮の母大宮と同じ腹の妹五の姫が居られる。更に、左大臣季明の娘(実忠の姉)昭陽殿、右大臣忠雅の娘、右大将兼雅の娘梨壷、平中納言正明の三女宣陽殿、が候う。

 右の妃達の中で平中納言正明の宣陽殿、右大将の娘梨壷二人が一番ときめいて羽振りが良い。

 他の妃達はその座にあるが、昭陽殿が妃の中で一番の年長者で、姿も憎げで性質も良くない。
 妃達には子供がない。

 そういう現況の中、あて宮が参内して、このような妃達が居るのも遠慮をしないで、春宮の許に毎夜添い寝に向かう。

 たまに他の妃が添い寝の相手の時は、春宮はなかなか帳台にはいらずに、あて宮の局で遅くまで音曲遊びに興じている。

 他の妃と一夜明けての夜、あて宮が春宮と共に過ごした翌朝、春宮は、

 珍らしき君にあふ夜は春がすみ
      あまの岩戸をたちもこめなむ
(久々に貴女に会えた夜は、春霞が濃く掛かって、貴女が帰る先の天の岩戸を塞いでくれればいい)

 と、歌を贈った。
 あて宮は体調が悪く寝込んで話もしない。妊娠した。

絵解
 此処はあて宮の局。あて宮十五歳。女房の中納言十九歳、孫王二十一、帥(そち)十七、宰相のおもと十八、兵衛廿、中将、辨、大輔(たいふ)、木工、少将、少納言、左近、右近、衛門達女房多数。

 髫髪(うない)童あて宮の御前に侍している。そこへ長兄の左大弁忠純がくる。間もなく春宮が来て箏の琴を合奏する。あて宮碁をする。


 正頼があて宮の局を訪問される。春宮が、
「こちらに」
 と言われるので御前に伺候する。色々と話をされて、春宮は、

「仲純はどうして久しく此方に参らぬのか」

 正頼
「ここのところ病に伏せって、人前には出ることが出来ません。あらゆる神仏に祈願を致しましたが、只今では助かる望みがありません」

「可哀想なことだなあ。朝廷で活躍するように思っていたのに。実忠朝臣も同じような状態だという。親が可愛がって大事にしている子供で有望な子がどうしてこうも身体が弱いのであろう」

 あて宮入内の翌春、十六歳の最初の庚申の日二月二十日に、東宮の妃達は局ごとにご馳走を造る。

 あて宮は庚申の日前に、殿上人、帯刀の陣(御所警備の)に果物などを贈ろうと考えていた。「良い機会である」と父の正頼に頼んでそれぞれに贈り物として差し出された。

 東宮の食卓には金属製の器で黄金の毛彫りが施されて、台盤の上に銀製の折敷きを置いてある。それを三十組み。折敷きには花紋綾に羅が重ねてある。檜の破子五十荷、普通の破子五十荷、檜の破子は東軍の妃達が準備して、普通の破子は正頼の配下の受領達が整えた。

 台の上に載せる料理他は、政所より飯四石ほどを炊いて檜の櫃十に入れて所々に置き、全体を朴の木で造り黒柿の脚を着けた食器を乗せる台の中取り十台の上に載せて、樫の木で造った椀に、生もの、干物、生の魚や貝等を飯と塩に漬けて自然に酸を生じさせて長持ちさせる鮨物(すしもの)、貝類を高く積み上げて美しく盛りつけをする。朴の木皿に柊(ひいらぎ)の脚を着けたのを据えて、一石はいる樽に酒を入れたのを十樽を置く。

椀・碗・盌
 飲食物などを盛るための器。古くは蓋(ふた)がないが,後世,蓋付きのものもある。 〔木製のものは「椀」,陶磁器製のものは「碗」と書く〕


 賭碁用に、銭三十貫、紙筆を机に多く置いて、色々の色紙を用意する。色紙は十重程置く。高坏、蘇枋の机にはまゆみの紙(檀の木の紙)、青紙(薄青に染めた紙)、松紙(松葉色に染めた紙)筆などを積み重ねて、碁代(ごて)碁の賭物として置いた。

 被物(かずけもの)は、女の装束、裏があって平絹に糊をつけた白の白張袴(しらばりばかま)を準備した。

 正頼と息子達が席に着く。一斉に料理などが運び込まれる、見事な光景である。

 帝から白の透箱に入れた果物、酒殿から酒を取り寄せて、蔵人木工の助(蔵人で木工寮の助)を使いとして、

「これはただの粗末なもので、和え物です」

 と、いうことである。

 源中将涼からは、沈の破子十、米の粉を篩ったもの破子に入れ(おしろい)、敷物、袋等を美しくして贈呈した。

 頭中将仲忠は、銀の透箱十。香の合わせ物、沈の鶴の形の透箱。筆、黄金の硯に亀を据え。唐錦で飾った沈の箱(碁盤)に金銀の線で目を刻み、銀の碁石の箱には、白石と紺いろの瑠璃の石を入れる。金銀の筋を入れた双六の盤。

 道具はこのようにして碁の賭物は、銭を白金で贈呈した。

 正頼はこの見事な贈り物を見て、

「えらく手の込んだ見事な細工物を贈られる中将達よ」

 と喜んだ。

 春宮は、正頼が準備した調度類は、ちゃんと配分するべき所々方々に差し上げた。

 夜の席では、破子三十ばかり、頭中将から贈られた透箱をそのまま差し上げた。

 台盤所には破子と碁の賭物を添えた。

 五姫民部卿宮北方に、殿に設けた箱と檜破子を添えて差し上げた。

 春宮殿から始めて、宮内諸方と帯刀の陣まで、破子、碁の賭物を与えた。

 内裏の清涼殿、蔵人所、侍従所、衛府の陣まで、碁の賭物の紙を渡しながら、品物を中取りに載せて与える。

 そうして帝の使者の蔵人に、白張り袴与えて、返事を、

「畏まり承りました。多くの物を戴きましたのは、時期をはずさずとお見受けいたしました」

 と使者に伝えた。

 中将達の使者にも白張り袴を与えて、礼の言葉を言付けた。

 内裏にも、殿上人が集まって攤打(だう)ち遊び金賭けて双六をするが、あて宮の局が近いので、春宮が行かれるとあて宮はまだ起きていた。

「あれ、どうしてだ」 

 と言われたときに、雁が沢山連れ立って飛び渡る。

 春宮は、
「この雁はいずこへ飛んでいくのだろう」

 中将仲忠、

 つれて行く雁がねきけば飽かでのみ
        花の錦もとぢられぬかな
(連れだって雁が鳴いていくのを聞くと、飽きたわけでもないのに、春の宮を去るのだと言っています)

 春宮

 飽かでのみわかるゝ雁のたむけには
        花の錦もとぢられぬかな
(雁が充分別れを惜しんでいるならば、花の錦を手向けにしようものを、あまり急ぐので綴じる隙もない)

 左大将正頼

 青柳のいとま惜しとてうぐひすの
      雁の手向けもとぢずやあるらん
(一寸の間も惜しいと雁が急ぐので、鴬は雁に手向ける弊を綴じることも出来ないようです)

 源中将涼

 かへり行雁のはかぜにちる花を
       おのが手向の錦とや見む
(急いで去っていく雁は、自分の羽風で散る花を、神に手向ける錦と見ることでしょう)

 中将実頼

 故郷へ翼やすめず飛ぶ雁も