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私の読む 「宇津保物語」  菊の宴

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 中の御殿から東御殿に物を配られる。女房が多く集まって、それを縫う。染色する。大貳の許から綾を三十匹持ってくる。

 次の画面は、正頼が子息や婿達と相談をしている。

 美濃の国より絹六十匹、丹後より小袿百匹を持ってくる。正頼は、金銅の五尺の薬師佛が七柱、陀羅尼経が置かれてあり、大宮の前では女房達が法服を急いで縫っている。


 正頼は、 
「男の人は笛を、女子は琴などを弾いて大后にお聞かせしよう」

 と、言って、
「舞は親王達の子供、左大弁(長男)、兵衛の督(次男)中将仲忠の子供を出さないかね。

 左大弁や中将の子供は、心配しないでも立派に舞を舞うだろう。女子達も此方が気まずいような演奏はしないだろう。宮の子供や内の子供は、ありきたりの舞の師ではなくて、仲頼や行正を師にして手ほどきをさせよう。舞を、この二人は教えないだろう。そうであっても、教えるように頼んでみよう」
 
 正頼は考えて、二人を呼んで、誰もいない御簾の中に招じて、

「私が近頃、賀のことを思ってしていることを、お二人はご存じないから私の考えはお分かりでないと思う。こっそりと準備をしていることで、と言って黙っているわけにはいかないので、今日ご相談をしようとお招きをした」

 少将仲頼
「畏れおおいことです。何ごとで御座いますか。その大事な相談があるとのことで、参上いたしました。お聞きして驚きました」

 正頼
「山一面に生えた小さな雑木を山とも林ともするように、どんな困難にも堪えて、今この事をしなければならない。

 ただこの事一つにかかわって大宮が忠実に準備しておいでなのです。

 嵯峨院の后の宮は来年六十歳の還暦を迎えられる。分かっていて見過ごすわけには参らない。

 我が家の子供達、親王の子供達に舞を舞ってお目に掛けようと思うのだが、誰もが知っている手を踊らせようとは思わない。少将のお弟子にして教えてやってください。

 このことを申し上げたくてお呼びしたのです」

 少将
「長い間隠してきたもので、舞をしたことがないも同じです。お分かりでしょう。

 吹上の浜で、人々はみんな舞を舞っておられましたが、その折りも私は舞いませんでした」

 聞いていた行正も同じようなことを言う。

 正頼
「行正朝臣までが辞退されるものですから、仲頼少将も辞退なさるのです。その様な遠慮は御およしになって下さい。

 仲頼少将は、宮の子供に、落蹲を。兵衛佐行正には内の子供に陵王、遠慮することなくしっかりと教えて、他の子供達に楽器をしっかりと弾き鳴らさせて、合わせて舞をするようにしていただかなければ、死後の世界でもお互い敵になりますよ。

 教えてくださるなら、連理の契りを致しましょう。男同士の深い契りを結ぶのです」

 正頼は言うだけ言うと奥に入っていった。

 仲頼行正
「舞が上手いと言うことを何処でお聞きになったのだろう。このことは人に知られないようにしていたのに、どうしてお知りになったのか」

 色々と考えるのだが、正頼の思い詰めての様子が心苦しく感じて、少将と行正は、正頼一族の子息を二人で五人づつ、右は一.三.五.左は二、四、六という、こまどり分け、にして、

 仲頼少将は、里から離れた粟田の奥で、鳥も通わない山の奥深くに籠もり、

 行正は、水尾と言うところで、仲頼の選んだところと同じ奥深いところで、

 人に知られないようにして、合宿して教えた。知っている手は同じ事ならしっかり教えようと、子供達に習わした。

 十二日より、民部卿の宮のお宅に舞い師を呼んで、若御子、採桑老。正頼の乙君、万歳楽。長男辨の御子、日本の曲扶桑楽の舞を教える。

 招聘された舞の師匠は、秀遠・兵衛ノ志(さかん)・遠忠などと当代の名人が多かった。

絵解
 この画は、民部卿の宮北方(正頼の五姫)女房大勢が忙しそう。君達が食事。舞の師匠も料理を食べている。君達の装束を着せる。

 そうして。民部卿の宮の太郎君が太平楽。次郎が皇麞(こうしょう)を舞う。

 
 民部卿殿。北方、舞の師匠二人、楽人十人ばかり。殿上人多数。酒、料理を飲食している。舞の師匠が立って舞う。子供達が習う。中務宮の太郎が、万歳、五常楽舞を舞う。舞の師に楽人達が多い。

 左大弁忠純の太郎は寿老、中将(正頼の三男)の太郎は鳥の舞を習っている。

 右大臣(兼雅兄)の所で食卓を作ることにした。  
 金銀細工師を呼んで、杯、香壷を作らせる。

 折敷きのことなども決められる。


絵解
 画は、右大臣の北方が折敷のことを相談して決める。白銀折敷二十、御杯、香壷が中取りの机に並べられている。大分前に用意された物らしく、厳かに清らかである。右大臣の家人(家来)達が多く候う。

 次に、陸奥の守種実から銭を万足送られてくる。米三百石西倉に積んである。下ろしてつかっている。蔵が四倉、三倉が米、一倉が銭が入っている。


 こうしているうちに月日が経って、十二月中の十日頃(二十日)に、大后の宮の忌明け御読経をなさる。君達は旗の準備やその他を総て準備した。

 中の大殿の東方を仏殿とされた。僧官の方々のお相手は君達が準備された。それ以下の伴僧のことは家人の侍達が世話をしたが僧達の部屋は便利の良いところに決めた。二十一日から読経が始まった。

絵解
 画は、政所。家司や別当達が僧具を調えている。中務の丞義則が居て、御読経の僧具の準備をしている。家司もいる。貴重品の倉(納殿)細いわかめ、海草のさとめ、紫海苔等を取り出している。 

 供の僧や弟子童が多数来ている。

 ここは大きな台盤にたててしを据えた。中大殿に仮設の読経の席は、花机に経が置かれてある。僧侶達が経を配る。経を読む師僧達が居る。

 この画は、仲頼、行正、仲忠、右近少将二人、受領どもが数知れないほど居る。


 こうして願を立てて読経をし三日経て午の時に、終了した。

 祈祷をした大徳達はお布施として白絹十疋づつ共に行う。夜はまた御佛名をなさるので、帰れない。


絵解
 これは中殿の東、君達が何かを見ている。夜の行のために花を作る人がいる。大勢の人。色々の君達がおひものをするからと急いで居られる。大殿正頼もなに用か急いで居られる。

 この画は、中御殿、大宮が導師の被物を一人一人に渡している。女房大勢。導師の料理準備に政所が忙しい。人々多数。大徳達の正午過ぎの食事を近江の守がしっかりと準備している。みんなに配る。導師の料理が多い。

 この画は、仏名が行われている。大徳達並んで列を作って伴僧を連れて七、八人が参る。儀式の進行を助ける次第司が導師を招き入れて事が始まる。

 仲忠、行正、仲頼、正頼一家の子供達、親王達多くが参加している。来会者の供達が多数。

  
 御仏名が終わると、晦となり、正月の装束を急ぎになる。

 そうなるとき、九の姫あて宮を懸想する人々は、やるせなく、年が明けるのも苦しく感じ、入内の噂を聞いて誰も誰もが妬ましさ悩ましさの心が一層激しくなるでしょう。


 霜が降りて一面白い朝に、平中納言(東宮の従姉弟正明)より

 連れない貴女のご様子だとは充分に承知していても懲りずに、