私の読む 「宇津保物語」 菊の宴
妃達は多く居られるが、その人達とのお付き合いは仕方がないことです。今は内裏に多く侍しておられるが、あて宮が入内なされば、一人二人春宮のお気に入りの妃が居ても、並々のお扱いになるでしょう。
そのことに気兼ねをなさいますな」
春宮は、あて宮の母大宮の同じ腹の弟であるから。(あて宮の叔父さん)
大宮は、
「そうですね、あて宮が可愛くて、もしどのような事で、と思うと恐ろしくて。貴女にあやかれば変なことはないでしょう」
「まあ大変なこと」
とお笑いになる。
一日話をして、琴を弾き、一方では男のお子達は正頼も集まってきて、音楽会を開き、妹たちは、清らかな音曲を奏でられる。
大宮は、東大殿に行こうとして、
「ゆっくりしなさいね」
と言い置いて去っていった。夜が更けて皆さん方はそれぞれの所に帰って行かれた。
絵解
この画は、中大殿。宮と御息所がお話をしている。
あて宮と男君のお方五人がいる。皆さんでご馳走を召し上がってお出でになる。男君も七人いらっしゃって、食べておられる。女房が大勢。
右大将兼雅より果物。破子を差し上げる。
この画は、姫達が食事をしている。大宮が東大殿に渡る。女房が大変に多い。童四人几帳を用意する。 みんな食事。
こうして、天照大神が天の岩戸に隠れたときに、天鈿女命が岩戸の前で「わざおぎ」手振り・足踏みなどの面白くおかしい技をして歌い舞い、神人をやわらげ楽しませたことに発する「かみくらあそび」お神楽をするように準備をする。正頼は長男の左大弁忠純に、
「今回の御神楽は十二月(師走)にするよりも、少し豪華にしようと思う。舞楽に堪能な者を選んで、立派に催してくれ」
「このようなことは初めは威容を調えるようなことはしないで、後々良くなっていくのが良いと、言う者が居ます」
「上達部が競うのが少し物足りないのでは、神楽の後の余興の才男も、しっかりと選んでおけよ」
「何時も来る者が参るでしょう。この一族の他に、雅楽寮の長官は内裏の宴に召されても参らないと言いますが、来ますか」
「書状を書いて、最後に仮名文字で書いておけば必ず来るよ、辞退したり拒んだりはしないさ」
「雅楽寮に属する楽人達も見ることでしょうから、最期に和歌などを書いておきましょう」
忠純は、家の事務所の政所に行って、家司にこのことを告げる。
「お神楽を十三日に開催すると言われました。
『今年の演し物を少し派手にしたい』
と、仰せになった」
左近の藤少将、滋野員政、政所の厩の頭、別当を定める。
大弁の忠純は
「現在内裏で神楽を担当しているのは。
右近将監(じょう)(右近衛の三等官)松方、
右兵衛の尉(じょう)(右兵衛の三等官)時蔭、 兵衛府は、六衛府の中で武衛(唐名)とも言われて宮城の外郭を守衛して、行幸の供奉警備に当たる。
右近の将監平惟則(これのり)
左衛門の尉藤原師直(もろなお)、平惟介(これすけ)
宮内少輔源直松、
右衛門佐(すけ)藤原遠政(とおまさ)「ゆげいのすけ」とも言う、
内蔵寮(うちのくら)允(じょう)平忠遠(ただとう)、
内蔵寮の三等官、内は大蔵省の大に対して内、御座所近い倉庫の保管出納(宝物、御装束、奉幣料)を司る。中務省に属して頭、助、允、属。
内舎人行忠(ゆきただ)、道忠、
内舎人は中務省に属して宮中を帯刀で宿衛し。供奉警衛する。大舎人に対して内。
雅楽寮の三等官楠武(くすたけ)、むらぎみ。
うまの允(馬頭)川敏、泰親(やすちか)、晴親(はるちか)
大和の介(国守の次官)直明。
信濃の介兼幹。
等、総て三十人の者達こそは、現在勝れた者達です。
この者達は内裏の招集以外は応じないようですが、殿がお召しになれば参るでしょう。あの者達に書状(廻文)でもって知らせましょう」
と言うことで、義則がお神楽、才の男(ざえのおのこ)神楽で滑稽な演技をする役、達の食事や禄のこと、唄う舎人達にも与える布(絹巻)のことも定める。
布は甲斐、武蔵から奉納された物を、相撲の節の還饗(かえりあるじ)の禄に、相撲人達の禄に使ってしまいました。それでも、信濃の牧より納めてきた二百反、上野の布三百反が政所にあります。其れを禄に致しましょう。
饗宴のことは、美作より納められた米二百石があります。伊予の封地からの産物、荘園の産物も上がってきていますから、以上の食材で賄いましょう。
殿の神々をお詣りなさること、神楽の中でなさいませ。
総てのことを、義則朝臣と少将和正と一緒になって実行してください」
と、大弁の忠純は話して立ち去った。
絵解
この画は、正頼の政所。大弁の忠純、回状を作って、才達を集める。米を沢山運び込まれる。
少将義則氏に送る廻文を書く。左大弁の忠純と正頼に見せる。
「この回答は貴人の人からもあるでしょうから、禄などは立派になさいませ」
北方大宮は
「いつものことですから、特別にどうなさいますか」 と返事される。
正頼の次男宰相師純を使者にして、伊勢の守に絹を出すようにする。白絹三十匹を、送ってきた。召人三十人用の細長一襲、袴一具ずつを準備した。
絵解
この画面は、忠純と正頼の子供達が布を裁っている。染め物をする。正頼と夫人の大宮もおられる。伊勢より絹が届く。政所に神に供える容器の準備をさせる。山より榊が来る。
お神楽の日は騒々しいだろうと、十一日は吉日なので、供物を供えるというので政所は騒々しい。
御神楽の日になって、多くの幔幕を準備して、寝殿の前を見事に飾り付けをした。日が暮れると才達が多くやってきた。巫女も揃う。正頼と夫人の大宮河原に出られる。供として、正頼の男の子達に四五位の者達が八十人が従った。
黄金作りの車が二台、副え車(女房達)の車が五台で出発する。現地では車を寄せ集めて音楽を楽しむ。暗くなって河原より帰る。
巫女が四人降りる。池と山が綺麗に出来上がって楽しく感じる。
上達部に皇子達、右大臣忠雅、右大将兼雅、民部卿の宮、左衛門督、平中納言正顯、源宰相実忠、
御子達は例の兵部卿の宮、中務の御子など多くおいでになった。仲頼・行正・仲忠いつもよりも一段と立派な装束で気をつけて、正頼邸に参上した。 正頼は、
「だからこそお出でにならないとは思いもしていませんでした」
と言って、幟を立てて、催馬楽、笛を吹き、歌を詠いながら、到着して並んで着座した。巫女達が庭で踊り始める。召人達も音楽を奏で始め、神の歌を詠う。
絵解
第一画面は、正頼の姫達、大宮を初めとして、婿のある姫達五人が集まっておいでになる。女房八十人、童が廿人、下仕え少し。
南の廂に客人達、女房。簀の子に仲頼、行正、仲忠、侍従仲純達。
第二画面は、夜の庭の光景。幔幕の内で才男達、一人ずつ食卓を並べて話し合っている。
こうして、召人三十人がそのままで神楽歌を合唱する。
神葉の香をかぐはしみ覓(と)めくれば やそうぢ人ぞ圓居(まとい)せりける
(榊葉の美しい光沢を賞でて尋ねてきましたら、大勢の人団欒をしている)
作品名:私の読む 「宇津保物語」 菊の宴 作家名:陽高慈雨