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私の読む 「宇津保物語」  菊の宴

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「そのことだが、入内のこと言っておられるか。私はあれこれと紛らわすために申し上げたのだが、どうしてもと仰せなので、お断りしかねたのに、兵部卿の宮、平中納言が、

『意外なことを』

 と思っているなかで、源宰相実忠がみんなの中で一段と思い詰めていた。左大臣は子供の実忠と見つめ合って涙ぐんでおいでになった。気の毒に」

 宮も困ったことと思いながらも、
「おかしな事で、あて宮のことで、楽しいことも、見ていられないほどかわいそうである時も多々あったことでしょう。春宮はどうして人々が多く侍するときに、あて宮入内のことをいわれたのであろう。

 もう、春宮は人々があて宮に懸想文を送っていることをご承知ながら、あて宮を忘れかねて言われたのでしょう」

「実忠はそういうお人ではないのに、人に気付かれる行動はいけませんね」

「畏れおおいこととは思っていても、そういうことは外に現れやすいものです。男という者は、さすがにこのようなことがあっても、生きながらえていますが、昔、貴女を思い初めた頃は、私はどんな心地がしたでしょう。実忠は道にあかるい人で有るが、恋の道は別、誰でも心が思い乱れるものです。

 人の目をふさぐことは出来ません。このように思うと、皆さんがお仕えをする春宮であるので、恋のことは誰もが申すことは出来ません」

 大宮は
「あて宮を何方にでも差し上げようとは思いますが、その方々のお仕えをする春宮様ですから、どういたしましょう。あて宮は丁度良い年頃ですから」

「私もそう思っています。兵部卿の宮、右大将などは普通の者としても、立派なものである。その人達もあて宮を切にお求めであるし・・・・・」

「それにしても、あて宮の心持が格別である、少し普通の人よりと違っていると思いますが、内裏には姉の仁寿殿居ます。それにまた、春宮にあて宮と思うと、多くの女御達が春宮に居られますので、あて宮が入内したらどうでしょう。

 春宮から直接に言われたことですから、丁寧にお断り申し上げたら」

「そうですね。でも何も心配なさることはないでしょう。宮仕えと言っても、こういう宮仕えは千人あっても、その人の前世からの定めでしょうから。多くの中から一人だけは帝の親となるでしょう。春宮が何回も言われるので・・・・・

 只今の帝は春宮の父君であらせられるので、直ぐにも帝に成られる方である、お申し出をよく考えてみると、あて宮は不憫である。思うことも多くあるが私はあて宮入内のこと賛成です」

「先のことは分からないが、宮中での交わりであて宮は目立って人に後れを取ることはないでしょう」

絵解
 この画は、正頼と北方の宮が話をしいる。 あて宮の住む中殿に姫君達が集まる。女房多く侍する。


 そうして、正頼の長女の帝の女房が内裏から退出するというので、お迎えの車廿、四位五位六位が多く、ご兄妹が全員参上した。手車の使用許可の宣旨が遅れて(帝の許しが遅れ)、夜中に退出なさる。明け方に三条の屋敷に帰られ、まだ何方も女御とはお会いにならない。

 母の大宮が早朝に中の御殿に渡り、女御が居る四の御殿に渡ろうと裳を付けて正装の姿である。
 姫達も揃って裳を付けて正装で控えている。

 大宮はあて宮の女房兵衛の君を使いとして西の御殿に、

「そちらに参りましょうか、此方でお待ちしましょうか」
 と、伺うと、御息所
「気分が悪う御座います、少し休んでいます。そちらにお伺いいたします」

 と答えて、すぐに母の許に渡る。母宮は、

「私がそちらに参ろうと思っていましたのに。どうして久しく此方にお出でにならなかったのですか、今回はゆっくりなさいませ。何時もご案じ申していましたよ」

「お暇を頂きたいと帝にお願いを致しましても、お許しが出ないものでして、退出が出来ませんでした。この度は、少し体調が悪いので、それにかこつけて」

「体調が悪いとは、例のことですか」

「はい、それが恥ずかしくて」

「なんと、久しくお子が出来なかったのですから、見苦しいなどと。いつからなのですか」

「七月頃からで御座います。何時もと違って、悪阻が酷いので、それを申し上げると、帝は、

『もう暫く様子を見てから、纏めて退出しなさい』

 と、仰せに成られたのですが」

 正頼も此方に来て、妹の姫達が全員揃う。

「このようにお帰りになるとは騒々しいことです」

 男兄弟のお方たちより、食べ物が贈ってこられた。


絵解
 この画は、中御殿に、正頼・姫達・大宮お出でになっている。女御の前に、色々と大きな台に食べ物がのって沢山並んでいる。


 そうして話をしているうちに、御息所が、

「あて宮は年頃になったのに、どうして婿をお決めにならないのですか」

 母の大宮

「そのことで色々と考えています。このままでよいとは考えていません。どうすればよいでしょう、何かお考えがありますか」

「実際にこのようなことは、未熟な女ではどうかと思いますが、それでよければ申し上げましょうか」 と、言って笑う。
「冗談は抜きにして、もうそろそろお決めになっては、お父様はどうお考えですか」

 母宮は、

「さて、置き場がないほど求婚者の数が多くて、まだ決めかねてお出でになるようです。

 先日お父様が仰るには、
『春宮があて宮を望んで居られるように仰って。子のことは忘れないように、と、父上に申された。内々でも申しておられることで、このことをいかがしようか、入内させて何かがあるとは思わないが、春宮の周りに多くの妃、女御が居られるので、あて宮が、肩身の狭い交際を強いられるのでは』

 と、仰せられて、まだどうしようかと決めかねています」

「それは大変にお目出度いことです。春宮からも只今でも御消息がありますか。それであればお決めに成りなさいませ。只今春宮のところには、世間の美人がこぞって入内なさってお出でです。

 美人は多いでしょうが、何時までもご寵愛が続くものではないでしょう。母上と同腹の四の宮、右大将兼雅の娘梨壷、今はときめいてお出でになります。このお二方を除いては、勝れたお方は居ないでしょう」

 大宮は長女の御息所に
「仕方がないでしょう。多くの妃や女御がいらっしゃるであろうが、左大臣の娘がお望みだと聞いているが、こうもありたいと思う方で高貴な方もいらっしゃいますね」

 御息所
「それでも、妃や女御がおいでになることは、似つかわしいことでしょうが、それかといって、あて宮が入内なさらず、里住まいなさるのも張り合いがないことでしょう。あて宮入内なされば、春宮と二人だけにするようにしましょう。あて宮がお側に居れば、浮気などをしない春宮ですから、ご安心です。

 とにかく先だって入内なさることです、春宮にはまだ皇子がありません。あて宮が遅れて入内しても頼もしいですよ」

「そうでしょうかね。一日も早く入内させたいと父上も申しておられました。父上も貴女と同じお考えなのでしょう」

「帝は、
『東宮妃に若い女が居ない、何とかして若い綺麗な娘を』

 と仰ってお出でですから、早くあて宮を入内させて。