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私の読む「宇津保物語」第三巻 藤原の君ー2

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「そうでございますね。どうしてご承諾なさらないことがありましょう。世界は一つ。このことは私が上手く計らいましょう。正頼の殿にはなにも申し上げないで下さい」


「正頼の長男左大弁忠純の乳母、中殿のおもとと知り合いでございます。そのおもとに手引きを頼みましょう」

 と、眞菅に言うと正頼の御殿に向かった。

「本当に最近参上しようと思っていましたが、このように雨の日が多くて外へも出られませんでした」

 中殿おもと、

「長雨が続くと、外へ出られないので、変わったこともできないので子供達を遊ばせるのに苦労をします。貴女方はいかがお暮らしですか」

「余りよいこともございません」

「私も最近、騒々しいばかりで喜び一つなくて籠もってばかり居ます」

「お暇でいらっしゃるご様子ですから私の宅においで下さいませ。この間から計画していました畑を耕し終わりまして、麦さしをするばかりで、昨日に手伝いが苗を集めて参りました。麦の粉を壺に入れて少し持って参りました。おいしくないでしょうが一つ召し上がり下さい。されば話でも致しましょうか、お互い気心が知れて意見が一致すれば嬉しいことですね」

「そうですね、話が分かり意見が一致する友達が欲しいですね。殿の周りには女房どもが沢山おられるが、私らが友人にするような女は居ない。

 女房は若い人が良いと言って総替えされました。私だけが貧乏で老いぼれてしまいました」

 と、中殿女房が言う

「どのお子にお仕えなさいました」

「一番上の太郎左大弁忠純様にだけ、お仕えいたしました」

「ご長男の若君にお仕えなされたのですから、それはお年を召されるのは当たり前です」

 とはなして、ともに出ていく。



絵解 

 ここは、太宰の帥眞菅の屋敷。檜皮葺の母屋と倉が沢山ある。

 子供の右近少将、次男の木工の助蔵人が描かれている。
 三男の東宮坊の坊官で武官帯刀が並んでいる。

 娘三人。女房二十人ほどが居る。

 眞菅が食事をしている。食台が二揃い、庶民が禁じられている青磁の食器類。娘達は朱色の台に金属の食器。

 男達は朱色の台に金属の椀で食事をする。
   
 透かし彫りのある箱と、旅に持って出る餌袋、 

 男の使用人が並ぶ。

この絵は、娘達が並んで綾、薄地の織物、選んでいる。

眞菅が、
「正頼大将のお屋敷では入費が大変だろ。白米二百石の手形を作るように」
 
この絵は、眞菅の子供男女が集まって相談事をしている。

筑紫地方へ航海する船の乗組員が来て、
「三百石の船が到着いたしました。もう一隻の方です」



 そうして、女が中殿の女房を眞菅に引き合わす。眞菅が、

「私のような老人が独り身で所在なく思っているから、正頼殿の若い娘達を頂きたい、と正頼殿に申し上げたい。ご伝言を頼めるかな」

 中殿の女房が答える。

「殿に申し上げてもすぐにはご返事はなさらないでしょう。文をお書きになってそれを私があて宮にお見せいたしましょう。私はご長男の左大弁忠純様にお仕えをしています、私の孫があて宮様にお仕えをいたしております」

「それはまた、宜しいことで」

 眞菅は言われたとおり文を書こうと、次男の帯刀に、

「父は、この通り老鰥夫(やもめ)であるので、惚けてしまいそうだから、妻を娶ろうと思うが、良き女に懸想文を出そうにも和歌というものが無ければ馬鹿にされるものである。和歌を一つ作ってくれ」

 帯刀は可笑しかったが、父の頼みに応じて、

 貴女に初めて文を差し上げる私でございますから、私のことをまず申し上げます。
 病がちでありました妻を太宰の帰任からの旅で亡くしまして、話し相手のない私は、このような暮らしをしています、

 浅茅のみ繁る宿には白露の
      いとゞ翁ぞすみうかりける
(浅茅だけが繁るこの宿には白露がおくばかりで、翁の私は住むに寂しく心憂いのです)

 浅茅を刈り捨てて下さいませんか。 

 帯刀は書き終えると、

「こんなものでは如何ですか」

「よろしい」

 と眞菅は綺麗な香染めの色紙に文を書いて、

「これのご返事を必ず貰って欲しい」

 中殿女房に銭を五貫、女房を紹介してくれた女に米を二石をあげた。中殿は喜んであて宮の許に向かった。



 あて宮の御殿で中殿女房は孫娘の、たてき、を呼び出して、
「姫君は何処にいらっしゃいますか」

「侍従の君と琴をお弾きになっておられます」

「この文を人目がないときにあて宮に差し上げて。お姉様の女御の方からだと言って渡すのよ」

 と言って孫の、たてき、に渡す。

 たてきは祖母の中殿女房から預かった文をあて宮に差し上げた。

 あて宮が開いてみると、鬼の目が潰れかけるような筆跡で書いてあるのであて宮は驚いて、

「これは私宛のものではない、中殿が貰った文である」

 と言ってあてきに返された。



 そいうことで、眞菅は話を初めて持ってきた女を呼んで、

「あの文を確かにあて宮に差し上げたか」

「中殿乳母は『うまい具合に申し上げましょう』と仰いました。ご返事は必ずありましょう。私が出かけて行ってご返事を頂いて参りましょう」

「早く行くのじゃ」


 
 女は中殿の許に行き、

「お渡しした帥の殿の文、ご返事を戴きに上がりました」

「どなたからの恋文にしても一度ぐらいでご返事がありましょうか、何回も懸想文を出してこそ初めて返事がもらえるものでしょう」

「それでしたら、眞菅様に、おもとからの御文でそのことを帥の殿に仰ってください」

「それはいいですよ」

 と言って、中殿おもとは、文を書いた。

 改めて帥の殿に申し上げます。仰せになられたことは、好機を得まして差し上げました。懸想文にすぐに返事があるようなことはありません。帥の殿、そうくよくよとお考えになりませんように、あて宮はもう貴方様の手にあります。私がお側にお付きしているのですから。

 と書いて、中殿女房は女に文を渡す。


 眞菅はあて宮からの返事であると開いてみると、偽の筆であると分かる。文章を投げ捨てて言う、

「ほんにお前は出来すぎた盗人である。どうしてお前は左大将の娘の文だと言って、他の女の書いた文を私に渡した。わしを、騙そうと思ってあやふやなものを私に渡したな。このことを成功させよと言ってお前に渡した米二石、即刻こちらに返せ。人を騙して物を盗んだのだ。お上に訴え出てすぐにお前を連行させる」

 と言って女の髪をつかんで縄で括り後ろ手に縛り上げて大木に括り付けた。

 女は括り付けられたままで言う、

[しっかりとお渡しした文を見てください、あの乳母が事情を申し上げているのであります」

 眞菅は投げ捨てた文を拾い、良く読むと、庭に飛び降りて女の許に行き、

「全く相済まんことした。あて宮の文と思って見て、筆跡が違うので、腹を立ててしまって。仲人の事情を申す文であった」

 と、眞菅自身で縄を解いて女を許し、簀の子に席を作らせてそこで女に料理を出して食べさせた。米二石と布十匹を与えた。

「ことが成就したら、千匹の綾錦をあげよう。間違った私の行動は忘れてくれ」