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キモチのキャッチボール

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 ミキコが言った。すると女子全員が大きな声で「賛成!」と言うものだから、タカシとアキラがいくら反対しても女子の勢いに負けてしまった。(ミキコちゃんがこんなこと言い出さなければこんなことにならなかったのに……)と、タカシはくやしがった。
「たかしくんとアキラくんのどっちにしますか?」
 さっそくユキコが言い出した。
「ボクはできないよ! いやだよ!」
 アキラは今にも泣き出しそうだった。
「それじゃあ、タカシくんやってくれる?」
 ユキコは、何とかタカシに引き受けてもらいたかった。
「ボクもいやだよ。やりたくない!」
 おこったように言うタカシを見て、ユキコはほとほと困り果ててしまった。そんなとき、先生が終わりの合図を出した。副班長がまだ決まっていない班は、今日の帰りまでに決めておくことになった。
 タカシたちの班は、次の休み時間に決めることになった。タカシとアキラは遊びたいので反対したが、「いない人は副班長にするよ」とこれまたミキコが言ったので、男子二人はしぶしぶ残ることにしたのだった。
「時間ないから早く決めようよ。タカシくんとアキラくんのどっちかだからね。……どうやって決めますか?」
 ユキコはあせっているようだった。
「ジャンケンで決めれば?」
 今まで意見を言ってなかったナオミが、少し遠慮がちに言った。
「ボク、ジャンケンよわいよ」
 アキラはまた泣き出しそうになった。
「ボクもいやだ。ジャンケンはいやだ」
 タカシもいやがるばかりであった。
「それなら、くじ引きは?」
 ナオミが、今度はおそるおそる言った。
「ジャンケンもだめなら、くじ引きもだめよね。お二人さん」
 ミキコが突然、口をはさむと、タカシもアキラもにっこりうなずいた。
 男子二人は、どうしても副班長を引き受ける気はないようである。……時間だけが過ぎていき、ついに休み時間終わりのチャイムが鳴り出した。
「男子がやらないなら、わたしがやるね。……でも、わたし、……足が悪いから、いろいろ手伝ってね」
 ミキコが小さな声で言った。タカシは、これで自分がやらずにすむと思った。でも、少しいやな気持ちにもなった。タカシは、どうしてこんな気持ちになるのか不思議だった。


   4
 新しい班になり、一か月が過ぎた。ミキコは相変わらずタカシに話しかけてきた。合図は、背中をちょんちょんと突っつくことである。
 タカシは最初、ミキコのことが苦手だったが、話してみると意外にも男子のようにさばさばした性格だったので、いやでなくなった。ただ、背中を突っつく回数が多くなってきたので、困っていた。
いつだったか、授業中にタカシは、背中を突っつかれて振り向いたら、先生に見つかり、注意されたことがあった。その時、腹が立ったが、ミキコは、自分が悪かったと先生に言ってくれた。そして、授業が終わったあと、タカシに何回も何回も謝った。
 班活動では、ミキコが副班長になったため、ますます口うるさくなり、おせっかいを焼いた。まるでミキコが班長のようであった。しかし、やるべきことはきちんとやるので、文句を言う子もいなかったし、男子は従うしかなかった。ただ、足が不自由なのに無理をすることがあった。
 タカシたちの班は、その日掃除当番だった。
「あれ、ミキコちゃんどこへ行ったの? さっきまでいたんだけど」
 ユキコが心配して言った。
「ミキコちゃんなら、バケツ持って行ったけど」
 ナオミが言った。
「え、水くみに? 無理だよ! むかえに行ってくる」
 タカシは急いで廊下へ出た。「走ったらだめ!」と言う班長の声が聞こえた。
 しばらくして二人は戻ってきたが、何やら言い争いをしていた。
「どうしてタカシくんがバケツ持つの?」
 ミキコは腹を立てていた。
「ミキコちゃんには無理だって!」
 タカシはがんとしてゆずらなかった。
「無理って、だれが決めたの? わたしだって、できるよ!」
「できない!」
「ああ、二人掃除さぼってる!」
 アキラが掃除をやめて、二人のそばにやってきたが、二人はおかまいなしに言い争っていた。
「ねえ、早く掃除やっちゃおうよ。早くしないと下校時間になっちゃうよ」
 班長に言われ、二人はしぶしぶ言い争いをやめて、掃除の続きをした。

掃除が終わり、反省会をした。カワノ先生も来ていた。班長から今日の掃除は時間がかかったという反省が出された。それについて、タカシは何も言わなかった。ミキコもだまっていた。班長は最後に、なかよく掃除をしてくださいと言って、反省会は終わった。
「二人とも、なかなおりしたのか?」
 いきなりアキラが言い出した。それを聞いていた先生が、アキラから詳しい話を聞いて、二人は居残りすることになった。

「それで、けんかの原因は何なの?」
 二人とも口を閉ざしたきりなかなか話そうとしなかった。仕方なく先生は話を続けた。
「ミキコちゃんがバケツを持って、水をくみに行った。そのあと、タカシくんがミキコちゃんをむかえに行った。そして、戻ってくるときけんかをしていた。まちがいない?」
 二人ともこっくりうなずいた。
「タカシくんは、ミキコちゃんが心配でむかえに行ったんだよね」
「はい」
 タカシが答えた。
「ミキコちゃん、タカシくんのそういう気持ちわかる?」
「はい。でも……」
「言いたいことがあるなら言ってごらん」
「……タカシくんの気持ち、わかるんだけど、……わたしバケツ運べます!」
「運べないよ!」
 タカシがすかさず言い返した。
「二人ともちょっと待って。それなら話し合いにならないよ。一人ずつ言い分を聞きますから。いいですか。 まず、ミキコちゃんから聞きます。さあ、話してください」
「わたし、……足が悪いけど、ゆっくりならバケツ運べます」
「ゆっくりじゃだめだよ!」
「タカシくん、口を出したらだめ!」
 タカシは先生に注意され、ばつが悪そうだった。
「ミキコちゃん、話、続けていいよ」
「タカシくんが今、ゆっくりじゃだめと言ったけど、ゆっくりじゃだめなんですか?」
「ううん、難しい問題だね。……タカシくん、どう思う?」
 やっとタカシの番になった。
「ゆっくりだと……待ってる人に悪いし、……迷惑になると思います」
 タカシは、考えながら答えた。
「ミキコちゃん、どうですか?」
「それじゃ、足の悪い人は、バケツを運んだらだめなんですか?」
「だから手伝いに行ったんじゃないか!」
「タカシくん、ちょっと待って。ミキコちゃんは一人で運びたかったんだね」
 ミキコはうなずいた。
「タカシくんは、ミキコちゃんを助けてやりたかったんだね」
 タカシもうなずいた。
「二人とも立派です。ただ、そのとき相手のことを考えてみた?……ミキコちゃん、どう?」
「……相手のこと?……タカシくんのこと?……自分のことしか考えていなかったかもしれない。……」
「タカシくんは?」
「考えました。だからむかえに行ったんです」
「タカシくん、そのときミキコちゃんが手伝ってって言った?」
「いいえ。でも……」
 タカシはうまく言えなかった。
「タカシくん、ちょっと思い出してみて。始業式の日、ミキコちゃんが教室の前でみんなにお願いしたよね。どんなことか覚えてる?」
作品名:キモチのキャッチボール 作家名:mabo