【創作】「rain」【BL】
定時を告げるチャイムが鳴り響き、レイン博士が顔を上げる。博士の熱心な講義は、ここまでのようだ。
「あ、えーと、今日はここまでにしましょうか」
「お時間を取らせてしまって、申し訳ありませんでした」
ルークの謝罪に、博士は驚いたように顔の前で手を振り、
「え? あっ、いえ、こちらこそ。長々とすみません。退屈でしたでしょう」
「いいえ、大変興味深く拝聴しました」
実際、博士の説明は平易な言葉で分かりやすい。基礎を噛み砕いて教えてくれたおかげで、ルークは、あの論文の内容がもう少し理解出来る気がした。
「博士は、教えるのがお上手ですね」
「あははは、皆が貴方のように飲み込みが早いと楽なんですが」
レイン博士が、机に散らばった書類を片づけようと腰を浮かせた時、椅子の背側にあった鞄が床に落ちる。ルークが拾い上げようとしたら、横から勢いよく奪い取られた。視線を向けると、恐怖に固まった相手の顔。
「あっ! す、すみません!」
「いえ、こちらこそ。大切なものなのですね」
平謝りしてくる博士に、ルークは何でもない風を装い、言った。レイン博士は、しきりに「大切な資料が」と繰り返す。
「帰りは車ですか?」
「へ!? あっ、はい、あの、はい」
「不安があるなら、部下に送らせますが」
ぎょっとした顔の相手に、ルークは、「大切なものなのでしょう?」と鞄を示した。
「連中が、貴方の研究成果を狙わないとも限りません」
「い、いえいえいえ! あのっ、仕事は持ち帰らない主義なので! 大丈夫です!」
「大切な資料」とやらは、仕事に関するものじゃないのか?
だが、怯える相手を刺激しないよう、ルークはゆっくり頷く。
「そうですか。では、また明日。私は、まだ仕事が残っておりますので」
「あっ、そ、そうですか。た、大変ですね」
「では失礼します」
ルークは敬礼してから部屋を出た。廊下の途中に身を隠し、レイン博士が扉から顔を覗かせるのを確認する。少ししてから、博士も部屋を出てきた。きょろきょろと回りを見回してから、鞄を抱えて歩き去る博士。途中で事故を起こさなければいいがと考えながら、ルークは制服の襟元に隠したマイクに囁く。
「エリスン博士が帰宅する。目を離すな」
『了解』
くぐもった応答の声に満足し、ルークは、あの鞄の中身を確認する方法を検討し始めた。
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ