【創作】「rain」【BL】
午後、レインが昼食を買って戻ってくると、ロバートに腕を取られて、休憩室に引きずり込まれる。簡素なテーブルの上に、紙コップに入ったコーヒーが並べられて、周囲を他の同僚達が取り囲んでいた。皆、そわそわと落ち着かない様子を見せている。
「どうしたの? またスプリンクラーが誤作動した?」
「ウィンドフォード少佐が来てるんだ。今、所長と話してる」
ロバートの言葉に、レインは首を傾げた。
「確信はないけど、知り合いじゃないと思う」
「名前くらい知ってるだろ?」
だが、レインは頭を振って否定する。
「何処かのパーティーで会ったかな? 僕は、人の名前を覚えるのが苦手で」
「エリート軍人様だぞ。この前も新聞に出てた」
レインは気のない返事をして、袋からサンドイッチを取り出し、ロバートに差し出した。
「食べる?」
「いや、いらん。何でも、いくつかの研究所に脅迫状が届いたとかで、軍の警護がつくんだと。それで、うちの指揮は少佐殿が取るんだそうだ」
レインはサンドイッチをぱくつきながら、「その人、凄いの?」と聞く。
「凄い。二十五歳で少佐だぞ。父親も軍人だったらしいから、エリートの血筋だな」
「へえ・・・・・・若いなあ。六歳下かあ。それって凄い?」
「チョースゴイ。最年少で大佐になるかもって言われてる」
「そんな優秀な人がいるなら、安心だ。あ、一ついい?」
紙コップを手に取ると、ぬるくなったコーヒーを啜り、
「軍が動いてるなら、早く研究を進めないとね。予算を削られたら大変だ」
部屋に戻ったレインは、サンドイッチの袋を机に投げ出し、乱暴に一番下の引き出しを開けた。中に入れておいたノートパソコンを取り出し、鞄に移し替える。
万が一にも、見つかったら・・・・・・!
鞄を抱き締め、椅子に身を沈めた。脅迫状が届いたのは研究所、自宅までは足を踏み入れないだろう。常に持ち歩くよりは、自宅に隠す方が安全か。レインは溜め息を吐いて、目を閉じた。
もう少し待ってくれれば、僕はこの世界から消えるよ・・・・・・。
生体のデータ化。過去に行われた実験の悲惨な結果から、現在は禁止されている研究だ。だが、それこそがレインの望み。自身をデータ化し、肉体を捨てる。雨の帳に隔たれたこの世界で生きるのは、もう限界だから。
僕はただ、研究が続けられれば、それでいいんだ。
過激派の主張にも、エリート軍人にも、興味はない。ただただ、邪魔をしないでくれと祈る気持ちだった。
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ