【創作】「rain」【BL】
車で四十分程走れば、研究所に着く。レインは指定の場所に駐車し、のんびりした足取りで建物内に入っていった。
おはようと挨拶を交わしていると、まだあどけなさの残る青年が、足早に駆け寄ってきた。
「エリスン博士ですね! お会いできて光栄です! サインを頂いてもいいですか!?」
「えっ? ああ、はい。はい」
戸惑いながらも、レインは相手の差し出してきた雑誌とペンを受け取り、表紙にのたのたと名前を書く。
「こ、これでいいかな?」
「ありがとうございます! うわー、本物だ!」
「はいはい、サイン会はそこまでだ」
レインの同僚であるロバート・ファフナーが割って入った。白衣を肩にひっかけた姿のロバートは、学生時代からと付き合いが長い。その彼から、インターンの学生だと説明され、
「そう言えば来るんだっけ。今日から?」
「五日前からだ。学生達は偉大なるエリスン博士の姿を捜して、右往左往してたぞ」
レインは首を竦め、それは悪かったと呟いた。ロバートは、いつものことだと言いたげに肩を竦める。隣で戸惑った様子の学生に、レインは視線を移し、
「まあ、程々に頑張って。それと、僕のことはレインと呼んで欲しい。『エリスン博士』は僕の兄だよ」
「農学博士なのさ。兄弟揃ってエリートだ。君が今朝食べたパンにも、博士の特許が使われている」
ロバートが付け加えると、学生はきょとんとした顔を向けた。
「いえ、朝はいつもシリアルとヨーグルトです」
その返しと、ロバートの表情に、レインは堪えきれずに吹き出す。
「いや、失礼。ええと、頑張って」
そう言って、やぶ蛇にならないうちにと、レインはそそくさと研究室へ向かった。
扉を閉めると、レインはほっと息を吐く。与えられた個室は、一人で籠もるには丁度良い広さだ。
オーディオのつまみをひねれば、流れてくるのは雨の音。世界からほんの少し遠ざかって、レインは椅子に身を沈めた。
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ