【創作】「rain」【BL】
夕方から降り出した雨が、窓を濡らしている。レインはコーヒーを手に、ぼんやりと其の光景を眺めた。
ルークはどうしてるかな・・・・・・。
彼がレインの警護から外れて三日経つ。僅かな日数が、耐え難い程の長期間に感じられた。暫く連絡出来ないとの言葉通り、ルークからは電話もメールもない。職務の邪魔になってはいけないと、レインからも送ってはいなかった。
ただひたすら耐える。一人には慣れているはずなのに、別離の苦しみは想像以上の重さで、レインにのしかかった。
もうすぐ、終了時刻を告げるチャイムが鳴る。帰りにスーパーマーケットに寄っていいかと聞いたら、今日の警護担当は快く応じてくれた。レインは空になった紙コップを握りつぶすと、ゴミ箱に放り込む。鞄に手を入れて、中から買い物リストを書いたメモを取りだした。几帳面だな、と笑うルークの声を思い出し、レインは深い溜息をつく。
貴方に会いたいですよ、ルーク。
相手も同じように感じているだろうかと思いを馳せていたら、チャイムが鳴った。レインは立ち上がってオーディオのスイッチに手を伸ばし、そう言えば鳴らしてなかったと気づく。
ルークと過ごすようになってから、雨の音を必要としなくなっていた。
「エリスン博士、そろそろ帰宅の時間ですよ」
扉の外から、警護の担当者に声を掛けられる。レインは「直ぐに行きます」と返し、鞄を手に取った。
雨粒が、駐車場のライトを反射しながら傘を叩く。レインは車のトランクに買った品を積めながら、横で傘を差し掛けている軍人を見上げた。
「すみません、貴方が濡れてしまいますね」
「いいえ、お気になさらずに。慣れていますから」
そう言って笑った相手の左手に、シンプルな指輪がはめられているのに気づく。きっと、自分の妻にも同じようにしているのだろう。
隣にいるのがルークだったらと考え、直ぐに其の考えを押しやった。彼のことを考えるのは、一人になってから。いつか周囲に気づかれる日が来るとしても、出来るだけ先延ばしにしたかった。
レインがトランクを締めるのと、女性の呼び掛けが聞こえたのは、ほぼ同時。
そして、「ランドールさん?」という声と、乾いた銃声が響くのも。
レインがぎょっとして振り向くと、隣に立っていたはずの相手はうずくまり、太股を押さえていた。街灯に照らされて、ぬらりと光る血の筋が、雨に流されていく。
逃げるのも声を上げるのも、もう遅すぎた。
つかみかかられたレインは、濡れたコンクリートの上に引き倒される。雨に濡れた顔が、光の中に浮かび上がった。ロバートが見せてきた画像そのままの、タリア・ランドールの笑顔。
「この私が恋人を男に取られるなんて、あるわけないでしょう?」
目の前に突きつけられた銃口と、タリアの笑みに、兄の声が重なった。
『レイン、窓を閉めなさい』
雨の帳と銃声が、レインと世界を切り離す。
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ