【創作】「rain」【BL】
呻き声をあげて、レインは体を起こした。寝室を満たす雨の音を切り、ぼさぼさの髪を手で更に乱しながら、浴室に向かう。脱衣所の鏡を覗き込んで、酷い顔だと苦笑した。
シャワーを浴び終わる頃には、大分気持ちも浮上してくる。まだ、ルークのことを考えると胸が痛むけれど、それもいずれ消えるだろう。
失恋なんて、何時ものことじゃないか。
まさか、この年になって恋をするとは思わなかった、それも年下の相手に、と笑いを漏らした。彼には相応しい女性がいて、出世の道も約束されている。自分は遠くからその幸せを願うだけ。それで十分だ。
髪を拭きながらキッチンへ行き、冷蔵庫を開ける。乏しい中身に、そういえば食料の買い出しに行かなきゃいけないんだったと、思い出した。
テレビのリモコンに手を伸ばすが、そのまま引っ込める。どうせ、代わり映えしないニュースばかりだろう。パンをトースターに突っ込み、メモ用紙をちぎって、買い出しリストの作成に取りかかった。
日曜日のショッピングセンターは、相変わらずの人混みで。レインは、すいませんすいませんと頭を下げながら、目当ての棚に向かう。
メモ用紙に書き付けた品を籠に放り込み、次の売場へとカートを押した。
何とかリストの品を揃えて、レジを通す。そろそろ昼時なせいか、ただでさえ混雑している店内は更に混迷を増し、レインは買った品を袋に詰め込んで、ほうほうの体で駐車場へと戻った。
車のトランクを開け、買い物袋を押し込んでいると、ポケットから防犯ブザーが転がり落ちる。うっかりなくしてはルークに叱られると、慌てて拾い上げたら、
「すみません、エリスン博士ではないですか?」
振り向くと、同年代くらいの男性が立っていた。貴方の論文を読んで云々という言葉とともに握手を求められ、レインが疑問も持たずに手を差しだそうとした瞬間、光が上着を掠め、布地を切り裂く。
「うわっ!?」
驚いて尻餅をついたレインに、男が覆い被さってきた。目の前に迫る白刃を払いのけようと手を振り上げた拍子に、防犯ブザーが鳴り響く。
大音量に、男が一瞬怯んだ。異変に気がついたらしい警備員が、声を上げて駆け寄ってくる。
レインはへたり込んだまま、逃げ出す男の背中をぼんやりと見送った。
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ