【創作】「rain」【BL】
夕方、レインを送り届けた後、ルークは久しぶりに自宅へ帰る。
独身用アパートメントの一室、最低限の家具が置かれた殺風景な部屋で、パソコンを立ち上げた。
さっと件名に目を通し、不必要なメールを削除していく。多くのダイレクトメールに混じって、タリアからのものがあった。
ルークは手を止めて、無機質な文字列を眺める。
レインはどこで、タリアのことを知ったのだろう。
直ぐに思い当たるのは、レインの同僚であるロバート・ファフナーだ。遺伝子工学を専門とし、社交的で、女好きの、お喋りな風見鶏。
何故、あんな軽薄な男とレインが親しいのかと、ルークは苛立ちを覚える。
ナターシャの研究室に戻ってきた時、様子がおかしかったから、恐らくその時に吹き込まれたのだろう。タリアのことを、どう受け止めたのだろうか。きちんと説明したかったが、どう言えばいいのか分からなかった。
『貴方の新しい家族に、彼女ほど相応しい女性がいますか?』
それは間違いではない。タリアには、「軍人の妻」として求められる全てが備わっている。実際、この任務が終わったら、正式にプロポーズするつもりだったし、彼女もそのつもりでいるだろう。けれど。
何故、笑わなかった・・・・・・。
タリアのことを聞いた時の、レインの顔を思い出す。悲しげな眼差しで、こちらを見つめていた。拒むように背を向け、部屋を出ていく後ろ姿。彼がいつものように笑ってくれたら、悩むこともなかったのに。
思いはいつしか、兄のサイダーへと向かう。ルークが父と同じ道に進むと決めた時、サイダーは笑わなかった。ただ悲しげな眼差しで、「君が決めたことなら」と言っただけ。あの時から、兄との間に埋めがたい溝が出来、いつしか連絡すら取り合わなくなった。もう何年、顔を見ていないだろう。
レインとも、疎遠になってしまうのだろうか。
自分の考えに、背中がぞくりとした。任務が終われば、彼との接点はなくなる。「外界」に興味を示さないレインは、何時しか自分のことを忘れてしまうだろう・・・・・・。
ルークは、手で顔を覆い、机に肘をついた。
任務のことも、タリアのことも、サイダーのことも忘れて、ルークの思考はただ一点を堂々巡りする。
彼は何故、笑わなかったのだろう。
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ