【創作】「rain」【BL】
ナターシャの研究室の前で、レインはトレイを持ち直す。
大丈夫。慣れてるから。何時も通りに。
自分に言い聞かせて、扉を開けた。「お待たせしました」と言った声は落ち着いていて、コーヒーを渡す手は震えていない。レインは、熱心に講義するナターシャを邪魔しないよう、壁にもたれて二人を見守った。
ナターシャの話を真剣に聞くルークの横顔に、胸が痛む。けれど、その痛みもいずれは消えるだろう。「いつものこと」なのだから。
正午を告げるチャイムが鳴り、レインは自分の研究室に戻った。何故かルークもついてきたので、いっそ全て確かめてすっきりしようと、レインはタリア・ランドールのことを切り出す。
ルークの返事は、「何度か食事をしたことがあります」だった。
「恋人に対して、随分淡泊ですね」
レインがからかうように言うと、ルークは首を傾げ、
「貴方にも、食事に誘う相手くらいいるでしょう?」
「・・・・・・・・・・・・」
黙ってナターシャから受け取った資料を片づけるレインに、ルークも察したのか、それ以上追求してこない。レインは机の引き出しを閉めると、最大限の努力を払って、ルークの顔を見た。
「贅沢を言っていると、私のようになってしまいますよ。貴方の新しい家族に、彼女ほど相応しい女性がいますか?」
大丈夫、落ち着いて。何時も通りに。
「どうぞ、お幸せに」
レインは「昼食を買ってきます」と言って、部屋を出る。溢れてきた涙を慌てて拭うと、足早に洗面所へ向かった。
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ