【創作】「rain」【BL】
突き当たりのドアを開けると、雨音が零れ出す。一瞬呆気に取られたが、オーディオから流れていることに気づき、余程好きなのだなと肩を竦めた。乱れたままのベッドを一瞥してから、クローゼットに目を付ける。扉を開け、上段に押し込まれていた鞄を見つけた。
コーヒーを零したんじゃなかったのか?
鞄の中にあったのは、ノートパソコン。立ち上げてみたが、パスワードが設定されている。
いくら博士がのんびり屋でも、そう都合良く長風呂をしてくれないだろう。解除する時間はないと判断して、ルークはパソコンを鞄にしまい、クローゼットの上段に戻した。今は、在処が分かっただけでいい。
ルークは足音を殺し、するりと寝室を抜け出した。
ルークの運転で研究所までやってきたレインは、早速同僚の部屋へと向かう。ナターシャ・エステスはすでに出勤していて、二人を出迎えた。
「お会いできて光栄です、エステス博士」
「こちらこそ、お会いできて光栄ですわ、少佐」
型通りの挨拶を交わした後、レインはナターシャから資料を受け取りながら、
「学会はどうでしたか、ナターシャ?」
「相変わらず退屈な集まりよ、レイン。酸欠になりそうだったわ」
豊満な胸を膨らませて、ナターシャは派手な溜息をつく。レインは笑いながら、同感ですよと言った。
「ナターシャ、少佐に、貴女の研究について説明してもらえませんか?」
「あら、私よりエリスン博士の方が、余程詳しいのではなくて?」
ナターシャの軽口に、レインは苦笑しながら手を振る。
「僕は門外漢ですから。コーヒーでいいですか?」
「ありがとう。出来ればミルクと砂糖もお願い」
レインは頷いて、給湯室へ向かった。
コーヒーを三つ、トレーに乗せていたら、ロバートがふらりと入ってくる。
「何だ、休日出勤とは珍しいな」
「僕より、君の方がよっぽど珍しいよ。インターンの子達の相手?」
レインの言葉に、ロバートは呆れたように天井を仰いで、
「雛鳥達は、偉大な博士のサイン会当日に、危険だからと帰されたよ。爆破に巻き込まれたら事だからな。頼むから、もうちょっと外界のことにも興味を持ってくれ」
「ご、ごめん」
レインは首を竦め、ミルクと砂糖をトレーに乗せた。
「エリート軍人様は、ミルクと砂糖をたっぷりがお好みなのかい?」
「違うよ、ナターシャの分。彼はブラック派だ」
「そりゃ、いい趣味だ。さすがエリート様は、コーヒーも女も趣味がいい」
トレーを手にしたレインは、ぎょっとして動きを止める。ロバートは一人頷きながら、
「今一番ホットな話題は、ウィンドフォード少佐がランドール将軍の娘に、何と言ってプロポーズするか、だ。俺は、ストレートに「結婚しよう」だと思うね。彼は言葉で飾るタイプじゃない」
「あっ・・・・・・恋人が、いるんだ」
レインの言葉に、ロバートは器用に小型端末を取り出し、画面を見せてきた。何かの雑誌らしく、ロゴの下に、彫りの深い顔立ちの女性が微笑んでいる。
「タリア・ランドール。退役したランドール将軍の愛娘さ。今人気のスーパーモデルだ。さすが少佐殿は、任務にも恋にも手を抜かない」
「そう・・・・・・そうなんだ。凄いね」
「何、偉大なるエリスン博士にだって、チャンスはあるさ。少佐を通して、婚約者の友人を紹介してもらえよ。その時は、俺のことも宜しく頼む」
胸を張ってポーズを取る同僚に、レインは曖昧な笑顔を浮かべた。
「うん・・・・・・良く売り込んでおくよ」
「頼むぞ。皆の期待が掛かってるんだからな」
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ